ルミネ百々秀SS① 普段はどんな任務でもそつなくこなす百々人だったが、今回は久々に苦戦を強いられていた。あがった呼吸、微かな耳鳴り、仲間からの指示も幾分か遠く聞こえる。
百々人は人よりも生への執着が薄い、と言っていたのは秀だったか。自分は強い相手と戦えればそれでいい。任務の達成よりもつい強者との戦闘を優先してしまうのは、鋭心だけでなく他の仲間にも周知の事実であった。人好きのしそうな甘いマスクとは裏腹に、毎度血湧き肉躍る死線を余裕綽々と潜り抜けてくる男が、今回に限って、こんな。
「どうして庇った」
秀には不思議でならなかった。百々人が秀の指示に従わないことはこれまでも多々あったが、他人のために自分の身を犠牲にするなんてことをこの男が本気でするとは思えなかった。何か対価でも要求するつもりなのか、それとも敵が化けているのか?いや、それなら余計に辻褄が合わない。
銃弾は百々人の身体を掠め、瑪瑙のような白い肌に赤い血が点々と色をつけていた。珍しく息を荒げる男はどこか人間らしく、むしろ怪我を負う以前よりも生き生きとして見える。
「……別に、他意はないよ」
では何故?
「……分からない」
「自分がしたことだろう」
「本当に分からないんだ!」
珍しく語気を荒げる百々人を秀は黙って見つめた。初めて見る男の言動にドクンと心臓が鳴る音が聞こえた気がした。ただ、と呟いて、百々人は自身の手のひらへ視線を落とす。
「……ただ、君に弾が当たるのが許せなかったんだと思う」
「は?」
何を言っているんだこの男は。
「……君に死なれると、僕が困る…?」
何故疑問形なのか。
ふと、あ!と閃いたような口ぶりで百々人は俺の方を向いた。彼の瞳が爛々として見えるのは気のせいではないだろう。
「君は強い。いつも指示は的確だし、戦闘だって僕たちに引けを取らない。だから君を倒すのは僕じゃなきゃ駄目なんだ」
「……それは、つまり、」
俺と戦いたいということか?
「うん、だからいつか僕に殺されるまで」
死なないでね。
それはもう嬉しそうに、満面の笑みで。
百々人が笑う姿を初めて見て、ゾクリと背筋に何かが走るのを秀は感じていた。自然と口角が上がる。
「……当たり前だ」
『死が二人を分かつまで』終