1昼下がりの坂本商店。
葵と花は買い物へ、ルーは安定の遅刻。そして店主は配達へと出掛けて行ったので、残されたシンはひとりで店番中である。
店内に客の姿は見えないのでモップで床掃除をしていると、扉が開く気配がした。
「いらっしゃーせ…」
接客言葉と共に振り返って来店した者を確認した途端にシンは「うわ、」という言葉を飲み込む。そこには笑顔で手を振る見知った顔。南雲の姿があった。
「やっほ〜、遊びに来たよ〜〜」
「どーぞお帰りくださーい、出口は後ろでース」
「わ〜熱烈歓迎〜」
「いやどこがだよ!?帰れ!」
─こいつは苦手だ。
心が読めない。何を考えているかわからない。未遂とは言え確実に一度は殺されている。以上の理由からシンは南雲という存在を警戒対象に認定している。
敬愛している坂本の同期で友人らしいが、どうにも素直に受け入れられない。しかも今日は変装をしていないのだ。何かあるに違いないと身構えるが、南雲は実にうざったい口調で絡む。
「あれ〜?店員さんがお客さんにその態度はいただけないんじゃないの〜??」
「お前さっき遊びに来たって言ってただろうが…冷やかしは客じゃねえっ!」
「アハハ、そういえば言ったかもー」
「(こいつ…) それに坂本さんは配達中で今いねーよ」
どうせまた友人に会いに来たのだろうとシンは店主の不在を伝える。そうすれば帰るだろうと思ったから。
すると南雲は少しだけきょとんとした顔をして、首を傾げた。
「別に坂本くんに会いに来たわけじゃないんだよね〜」
「は?」
「ただ近くに来たから寄ってみただけだし」
「おい、マジの冷やかしかよ…」
暇つぶしだとハッキリ言った南雲にシンは溜め息を吐いた。
「ところで、」
「あ?」
「なんで距離を取るの?」
じりじりと一定の間隔をとっている事に気付かれた。
シンは内心舌打ちをひとつ。
この行動は本能の警鐘による物だと言い聞かせる。別に逃げている訳では無い。決して。
眉を寄せて黙ったシンを見て、南雲は微笑む。刹那、その姿が消えた。
(!? 消え─)
視覚が認識したと同時に背後から腹部に手を回され抱きしめられる感触を感じると、さらに耳元に息を吹きかけられてぞわりとした感覚が走る。
「ッ!? このヤロ…!!」
瞬時にモップの柄を背後へ振りかざすも、ヒョイと躱した南雲は元の場所へと戻る。
「あはははは!!君ホントに面白いね〜!」
そのセリフにシンが本格的にモップを前に構えると同時に、店のドアが開く。それに対して南雲は「あ」という短い言葉を発した。そこに見えたのは配達を終えて戻って来た店主の姿。
坂本は南雲とシンの姿を見ると、南雲に対して不快そうな顔をする。
「…お前、また店で暴れる気か…?」
「もーやだな〜、坂本くん、そんなわけないじゃーん」
へらっと笑うと、南雲は坂本の隣をすり抜けた。
「じゃあね〜シンくん、また来るよ〜」
「二度と来んなッ!!!」
反射的に力の限り叫ぶと、坂本と目が合ったシンはその心の声を捉える。
(なにかあったか)
「な…なんでもないっス…」
(?)
言えない。また背後とられて遊ばれたなんて事は…絶対に。
バレてはいるだろうが、言ってしまったら立ち直れない気がする…
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次回
「なんや最近ゴキゲンやな」
「うん。ちょっと、ネコを手懐けてみようかな〜って思って」
「ネコ?ペットでも飼うんか?」
「それが、もう飼い主がいるネコなんだよね〜〜」
「はあ? なんや知らんけど、あんま変なことせんとき」
「はいはーい」
「全然聞く気ないやん… まぁええけど」