「愛とうーん……可愛さの名のもとに!なーんてな」ある時は、
「なあなあなあ見てくれよコレ!さっき作業入ったアブノーマリティがくれたんだけどさ、めっっちゃ可愛いと思わねえ!?」
またある時は、
「んへへ、いいだろコレ!さっき[宇宙のかけら]?だっけ。あいつがくれたんだよ~!お揃いの服着てたからかな!?めちゃめちゃ可愛くてお気に入りなんだよ!」
……職員オノリオは可愛い物を愛する。それが甘くておいしいお菓子であろうと、恐るべきアブノーマリティであっても。同期のイゴリーが[銀河の子]からペンダントをもらってきた際にはそれはもうとびかからん勢いで食いついたし、同じく同期のニコルが装備を新調し[ラブ]を着てきた際には真っ先に「超似合ってる!!」と褒めに行ったほどだ。そんな職員オノリオには、悩みがある。
「……また貰えなかったんですか?」
「うう……」
「お前やっぱり嫌われてるんじゃねえか?あの熱量は流石にドン引きするだろ」
「そんなんじゃねえって!!!!!憎しみちゃんそんなこと言わなかったもん!!!!」
そう、[憎しみの女王]からのギフトが一向に貰えないことだった。オノリオは福祉チームの1職員だが、ここロボトミー社に収容されている魔法少女のファンでもある。とりわけピンク色の可愛らしいコスチュームを着た[憎しみの女王]は彼の一押しで…「ていうかおれは箱推しだから憎しみちゃんの前でだけオタクしたりとかしねえもん!!」「へーへー」……前言撤回。彼は魔法少女箱推しだったな。
「それで、その結果ギフトは貰えたんですか」
「アッ……チョットノーコメントデ……」
言わんこっちゃない、と言わんばかりにイゴリーとニコルは首を振る。うう……としょげるオノリオを横目にイゴリーは続ける。
「そら自分と同じ格好したやつが目バキバキにして自分の部屋入ってきたら誰だってビビるだろ。俺だって嫌だわ」
「えっオレそんなに目キマってる?」
「明らかに様子はおかしいですね」
「嘘だろ……」
衝撃の事実を前にオノリオは頭を抱えて座り込む。どうやら完全に無自覚だったらしい。魔法少女関連になると大体いつも様子がおかしい、ということは黙っておくべきだろう。...最も、朝一で記録チームへの異動を願い出てきた際には流石のこちらも当惑してしまったが。しょぼくれているオノリオをよそに、エレベーターのドアが開く。
「失礼します、オノリオはこっちに…」
「ああ、ジョシュアさん。オノリオに何か用でしたか?」
現れたのは記録チームチーフのジョシュアだった。どうやらオノリオを呼び戻しに中層まで上がってきたらしい。
「ごめん、取り込み中だった?」
「いや特になんもねぇけど」
「そっか、ならよかった。ちょうど管理人から作業指示が入ったから、オノリオを呼びに来たんだ」
「ああ、そういうことでしたか。うちの魔法少女バカがお手を煩わせてしまったようですみません」
あはは……と苦笑するジョシュアを横目に、オノリオは「誰がバカだ!バカって言う奴がバカなんだからな!」と抗議の声を上げながら立ち上がる。
「ごめんごめん、愚痴も終わったしそろそろ戻るな!じゃあな~!」
急いで下層へと向かうオノリオの背中を見ながら、「現金ですね」「あんなんだから一生ギフトもらえねーんだろ」とぼやく同期の声は届いていなかった。深呼吸を一つ。瞬きを二回。三回ノックして、いざ。
「失礼します!愛着作業しに来ました!」
今日も、彼は自分の戦場へ、自分の憧れのもとに、会いに行く。