More Than 3「はい、これ」
……いや、はい、じゃなくて。仕事終わった後に「渡したいものがある」って言うからついて来たのはいいんだけど。全然状況が分からない。誕生日先週だし、なんなら誕生日もネックレスもらったし。
「何コレ」
「チョコレートだが」
「いやそれは見ればわかるけど。急に何?今日なんかあったっけ」
「バレンタインデー、って言うらしい。オノリオに教えてもらったんだ」
「......ふーん?」
なんでもそのバレンタインデー?には恋人同士でお菓子を贈りあうのが当たり前らしい。私たちが育った裏路地ではそんな余裕がある人達ほとんどなんていなかったから知らなかったけど、そういえば巣のほうではそんなことをする、なんて話をオフィサー達がしてたような気もするし、今朝ニコルさんからもチョコクッキーもらったっけ。ニコルさんがお菓子作ってるのはいつものことだからあんま気にしてなかったけど、わざわざチョコ味ってことはこれもバレンタインの一環なのかな?
「それで、わざわざ今日のために用意したってワケ?」
「普通は女子から男子に贈ることのほうが多いらしいが、別に性別は関係ない、って言ってたしな。......ああ、いらないならいいよ。そのまま俺が食べるから」
「いらないなんて一言も言ってないんですけど~。こんな美味しそうなチョコ、食べるに決まってんじゃん!いただきまーす」
箱を開けると、中にはちっちゃいチョコレートが四種類入ってた。それぞれハート型だったり、模様が入ってたりしてて可愛い。......いやアイツ、案外センスいいな。真っ赤なハート型のチョコを一つつまんで口に入れる。甘酸っぱいイチゴ味が口に広がる。
「美味し~」
「ん、それは良かった」
隣に入ってたミルクチョコレートも甘すぎなくてちょうどいい。これ本当に美味しいな......どこで見つけたんだろ、こんど連れてってもらおうかな。なんて考えながら三つ目を手に取る。......なんか視線を感じる。チラっと上を見ると、笑ってるバジルと目が合った。
「......何?そんなにジロジロ見られてもあげないからね?」
「はは、別にほしくて見てたわけじゃないんだ。ただ、美味しそうに食べるなと思って」
「......それだけ?」
「ああ」
「......あっそ」
ほんとにコイツのこういうところ意味わかんない。別に私のこと見たって何も面白くないでしょーに。何が楽しくて私の顔なんかずっと見てるんだか。いつも余裕そうに笑ってるのも、すました顔してるのもなーんか気に食わない。
「バジルってさ、」
「ん?」
「アンタって私のことほんっとに大好きだよね」
「そうだが?」
「即答じゃん」
そんなめちゃめちゃ大真面目な顔されても、こっちは全然冗談のつもりだったんですけど。
「ちょっと冗談で聞いてみただけだし。そんなガチトーンで返してこなくて結構で~す」
「事実を言って何が悪い」
「顔コワ。そんな?」
「好き、も何も愛してるけど。全部」
当然のように言ってのける。本当に、ほんとうにムカつく奴!ここまでくると、そのツラを何とかして崩したくなってくる。
「……例えば?」
「例えば?そうだな.....美味しそうに飯食べてるところ」
「うん」
「綺麗な髪」
「…うん」
「鎮圧の時に眼開いてる所」
「うん?」
「勢い余ってハンマーに振り回されそうに振り回されそうになってる所とか、悪戯しようとして何か企んでる時の顔も」
「ちょ、待って」
「それがうまく行かなくて、変な顔してる時の顔も」
「わかった、わかったから」
「……なんだ、もういいのか?」
「十分わかったからもういいです~。ほんとに大真面目にあげ始めるとは思わなかった」
「俺は最初からずっと大真面目だが」
顔色一つ変えやしない、ほんっっとにコイツ......!これじゃ、私が負けたみたいじゃん!
「はぁ、もういいや。チョコありがと、美味しかった」
「どういたしまして。......あぁ、そうだ」
「何、まだなんか────」
「今みたいな、照れて目が合わない時の顔も好き」
「~~~っるさ!!アンタのそういうとこほんっとに……!!」
腹が立つ。憎らしい。それすら言わずに部屋を出る。絶対に好きだ、なんて言ってやらない。そんなこと言ったら負けを認めたようなもんでしょ!