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    slow006

    @slow006

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    slow006

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    アイスキャンディー食べてるところが可愛過ぎて私的サビ。養われの才能あるって信じてる。

    じわり、汗が落ちる。じとじと、じとじと。陽の光と湿度と、何よりこの村に入ってから感じるまとわりつくような空気が気持ち悪い。林や水辺に入れば幾分かマシだが暑いものは暑い。調査も思うように進まず、水木は溜息を一つ溢す。隣にいる大男はそれに気がついてチラリと視線を寄越したが、すぐに遠くへ視線を戻していた。とりあえず気分転換だ。水木は溜息とともに下げた顔をぐっと上げる。生来の性格もあり、こういうときにすぐ切り替えが出来る人間だった。

    畦道を抜け、村の中心分にある商店に向かった。寂れた店ではあるが、村人の生活を賄っているだけあって品揃えは悪くない。店番の老婆に挨拶をすれば、聞いているのかいないのか頭が少し揺れただけだった。軒下に置かれたアイスケースは旧式でヴーンと唸っている。下の方は錆びていて一瞬大丈夫かと不安になったが、中を覗けば色とりどりのアイスキャンディーが冷えていた。蓋を開け、ソーダ味を一本取り出す。ふと、後ろをついてきた男を見れば、少し離れた場所で何をするでもなくボウっと立っていた。

    「ゲゲ郎、お前は」
    「持ち合わせがない」

    きっぱりとした答えに、水木はああと納得する。そういえばそうだ。コイツは人間じゃあなかったんだ。妻とともに人里に降りて暮らしていたそうだが、どうみても人間社会に溶け込んでいた様子は感じられない。妖怪や幽霊族に通貨の概念があるかは知らないが、こちら側の通貨を持っていなくとも、なんら不思議には感じなかった。

    「いい、買ってやるから。早く選べ」

    水木が言うと、大男、ゲゲ郎は身を少し屈めて軒下へと入る。それからジィッとアイスケースを数秒眺めて、なまっちろい手でオレンジ味のアイスキャンディーを手に取った。そしてそのまま流れるように側に置かれたベンチに座り、ベリリと包装を破いた。

    「恩に着る」と僅かに口元を緩めた姿は少し幼く感じて、自分より上背がある男をつむじを眺めながら、アイスケースの上にアイスキャンディー2本分の代金を置いた。
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    slow006

    DONEリプorマロ来たセリフで短編書くで、リクエストしてもらいました!
    思い出を全部大事に抱えているのは、及川の方だと思っている。
    ねぇ、こうちゃんいつのまにか眠っていたようだった。
    日曜の昼下がり、暖かな春の空気に包まれて菅原はすっかり眠くなってしまった。ぼんやりとした頭と気怠い身体に逆らうことなく、居間にあるソファーに深く腰掛け、微睡むこと早一時間。せっかくの休日が……と、のろのろ身体を起こすが、左手だけ自由が利かず、立ち上がるまでには至れない。仕方がないかと半開きになったベランダへと続くガラス扉のほうを見る。すると、網戸越しにベランダの手すりの上をするりと通るかたまりが見え、菅原は二十代の頃に暮らしていたアパートを思い出した。同じようにベランダの手すりの上を滑るかたまり。斑ら模様を歪ませながら手すりの上を器用に歩くのは、菅原の住むアパートの、二軒先の戸建てで飼われている猫だった。さぞ良いものを食べているようで、外を出歩いているのにも拘らず毛並みが良く、水晶玉のような瞳はきらきらと輝いていたのを覚えている。いつだって仏頂面をしているその猫はどこか及川の幼馴染である岩泉を彷彿とさせるため、菅原は勝手に「岩泉」と呼んでいた。それに対し、及川は「スガちゃんさあ、よく見て!岩ちゃんはもっと愛嬌ある顔してるし!」と遺憾の意を示したが、菅原がそれを受け入れることはなかった。そもそもこの猫が家人に「ミーコ」と呼ばれていることを知っている。それでも、菅原にはもう岩泉にしか見えないので「岩泉」なのだ。
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    slow006

    DONEリプorマロ来たセリフで短編書くで、リクエストしてもらいました!
    弱っている及川さん良いよねと思いつつ、こんな弱り方するか?と己の解釈と戦っている……。想定していたシチュじゃなかったら申し訳ない……。
    何も云わないで薄暗い玄関にいた。春からの新生活に向けて引っ越したばかりの部屋は物が少なく、未開封の段ボールがそこらかしこに鎮座している。引っ越した、と言ってもまだ準備段階。ここに住んでいるわけではなく、住環境を整えている真っ最中だ。照明もまともに機能しているのは部屋のなかだけ。玄関は用意していた電球ではワット数が合わず、そのままになっている。

    三月も終わりに差し掛かった頃、菅原のもとに一件のメッセージが届く。「これから会えない?」とただ一言。差出人は及川徹。半年ほど前から菅原と交際をしている、要は恋人である。恋人といっても付き合い始めた時期が悪い。部活だ受験だと慌ただしく互い違いになることもしばしば。そもそも通う学校が違う。きちんとしたデートは指で数える程度。なんとか隙間を見つけては逢瀬を重ねていたが、それでもやっぱり恋人というには時間が足りない気がしていた。そして、この春から二人は離れ離れになる。菅原は地元の大学へ進学。及川は単身、アルゼンチンに行くという。どうやら知己の人物を師事してとのことだが、よもや誰が予想できただろうか。それを初めて耳にしたとき、菅原は「そっか」とただ一言だけ返した。完全なるキャパシティオーバーで受け止めるのがやっとだった。
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    recommended works

    slow006

    DOODLE第15回 菅受けワンドロワンライ、「映画・特別」及菅で参加させていただきます。
    映画は「フォレストガンプ」です。面白いので良かったら見てください。1994年だと「天使にラブ・ソングを2」もおすすめです。
    第15回 菅受けワンドロワンライ「映画・特別」―― My momma always said,”Life was like a box of chocolates. You never know what you’re gonna get.”

    スクリーンに文字が流れ切ると一瞬、視界が真っ暗になる。それから一拍ほど置いて照明がつき、同時に静まり返っていた劇場内は賑やかになった。同行者と話し始める人、荷物の整理を始める人、足早に席を立つ人など、さまざまだ。菅原と及川は席に座ったまま、人が捌けるのを待っていた。

    菅原がときおり訪れる映画館では、名作映画を週替わりでリバイバル上映している。上映される映画は、菅原が生まれるより前のものであったり、まだ幼く映画館に訪れることがなかった時期のものだったりと、古くても目新しいものがほとんど。なかには、昔から映画番組で何度も観たことのあるものもあったが、テレビで観るのと、映画館で観るのとでは、没入感や臨場感、ストーリーの理解度が段違いだった。要は映画にしっかり向き合えるのだ。この週替わりの上映を菅原は気に入っていて、めぼしい映画をチェックしては、映画館に足を運ぶ。この日観た映画は、アメリカのヒューマンドラマ映画で及川と菅原が生まれた1994年に公開されたものだ。たまたま上映日と及川の帰国が重なり、菅原は及川を誘って映画館にやってきた。
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