じわり、汗が落ちる。じとじと、じとじと。陽の光と湿度と、何よりこの村に入ってから感じるまとわりつくような空気が気持ち悪い。林や水辺に入れば幾分かマシだが暑いものは暑い。調査も思うように進まず、水木は溜息を一つ溢す。隣にいる大男はそれに気がついてチラリと視線を寄越したが、すぐに遠くへ視線を戻していた。とりあえず気分転換だ。水木は溜息とともに下げた顔をぐっと上げる。生来の性格もあり、こういうときにすぐ切り替えが出来る人間だった。
畦道を抜け、村の中心分にある商店に向かった。寂れた店ではあるが、村人の生活を賄っているだけあって品揃えは悪くない。店番の老婆に挨拶をすれば、聞いているのかいないのか頭が少し揺れただけだった。軒下に置かれたアイスケースは旧式でヴーンと唸っている。下の方は錆びていて一瞬大丈夫かと不安になったが、中を覗けば色とりどりのアイスキャンディーが冷えていた。蓋を開け、ソーダ味を一本取り出す。ふと、後ろをついてきた男を見れば、少し離れた場所で何をするでもなくボウっと立っていた。
「ゲゲ郎、お前は」
「持ち合わせがない」
きっぱりとした答えに、水木はああと納得する。そういえばそうだ。コイツは人間じゃあなかったんだ。妻とともに人里に降りて暮らしていたそうだが、どうみても人間社会に溶け込んでいた様子は感じられない。妖怪や幽霊族に通貨の概念があるかは知らないが、こちら側の通貨を持っていなくとも、なんら不思議には感じなかった。
「いい、買ってやるから。早く選べ」
水木が言うと、大男、ゲゲ郎は身を少し屈めて軒下へと入る。それからジィッとアイスケースを数秒眺めて、なまっちろい手でオレンジ味のアイスキャンディーを手に取った。そしてそのまま流れるように側に置かれたベンチに座り、ベリリと包装を破いた。
「恩に着る」と僅かに口元を緩めた姿は少し幼く感じて、自分より上背がある男をつむじを眺めながら、アイスケースの上にアイスキャンディー2本分の代金を置いた。