救い主夜食クラブ〜with魅津編〜(前編)三登「湊君、話がある。」
湊「ん?三登君、どうしたの?いつになく真剣な顔だけど……」
某シェアハウス、午後9時。
秘密裏に運営されている「救い主夜食クラブ」に参加している三登と湊の2人は、三登の呼びかけによって三登の部屋に集合していた。
湊に心配された三登は、一呼吸おいてから話を切り出し始める。
三登「──魅津さんについてなんだけど」
湊「魅津さん……?魅津さんがどうかしたの?」
三登「魅津さんね、ボクら夜食クラブのことを時々覗き見してることがあるんだ。だからね──」
湊「だから……?」
三登「やばい大人に報告やら何やらされて夜食クラブの活動に支障が出る前に拉致って、魅津さんも夜食堕ちさせて同罪にしようと思う」
湊「やろうとしてることはまぁいいけど言い方が無駄に物騒だね」
三登のやろうとしていることに賛成しつつ、湊はその無駄に物々しい言い方へ流れるようにツッコミを入れた。事実、「拉致」だの「堕とす」だの「同罪」だの、言い方は物騒オブ物騒である。
流れるようにツッコミを入れた湊は、始めの三登と同じように一呼吸おいて話を再開する。
湊「で、どうするの?拉致って」
三登「うん。……そもそも魅津さんがボクらの活動を覗くタイミングって、魅津さんが風呂から上がった後なんだよ。んで、その魅津さんの大きな特徴として、お風呂は徹底的に人目を避けて入ろうとするんだ。まぁ故意にそんなことする奴はいないけど、万一事故だろうとなんだろうと覗かれたりしないようにね」
湊「へぇ……なんかますます女の子みたいだなぁ……あれ?」
三登のその発言に、湊は何か思うところがあったようだ。
湊「つまり、魅津さんが風呂から完全に上がる時間の時、基本的には僕ら以外に起きている人がいない……?」
三登「そう。そこだよ。そのタイミングを狙うんだ。そうすれば──」
「「誰かに見つかって邪魔される心配がない」」
どうやら策は整った……いや、整ってしまったらしい。
三登「よしそこまで揃ったなら話は早い。ボクが魅津さん羽交い締めにして引きずって連れてくから、湊君はとっておき作っておいて。確か魅津さんは味噌が好きだったはず」
湊「任され……いや三登君腕力無いでしょ、僕がやるから三登君が作ってよ」
三登「そうだった。了解。魅津さんあと30分くらいでドライヤーまで終えて洗面所出てくるからそこ引っ捕まえて」
湊「なんでそこまで知ってんの?ストーカー?」
三登「違うよ?」
かくして二人は、それぞれの持ち場についたのだった。
〜ちょうど30分後〜
魅津「ふぅ……」
心地良さそうなため息と共に、湊がすぐ横の死角に控えている洗面所のドアを開けて今回のターゲットが出て来た。
(んー、一人でゆっくり入れるっていいなぁ……最近はなんか事故ってばったり誰かと会っちゃいました、みたいな事も減って来てるし……落ち着いて入れるっていいなぁ……)
そう。魅津の正体についてなんとなく勘づいている者は、実際のところ少ないながらもいるのだ。それが幸いしたのかどうかはわからないが、最近彼女が風呂に入る辺りの時間には風呂場周辺に人が現れることがなかった。故に彼女は、死角にて背後を狙いながら息を潜める湊の存在など露も気づくことはなく──
湊「今だ……っ!」
魅津「!?!?!?!?」
背中を見せた瞬間、湊に見事羽交い締めにされた。
魅津「ちょ、なに?なんなの──っ、むぐっ!?」
湊「ごめんね、あんまり大きな声は出さないでほしいな!」
流石の魅津もこれには困惑、いや危険を覚えて抵抗しながら声を上げようとする。そんな魅津の口を湊は器用なことに片手の角度を変えて塞いだ。
しかし──
魅津「むーーーーむーーーーーんーーーーー!」
(はーーーーなーーーーーせーーーーー!)
湊(っ!?ちょ、力強っよ……!?)
流石綱引きの最後方担当、ましてや茨木童子の金棒を担ぎながらがしゃどくろの小指の骨の運搬を手伝えるレベルの怪力を持つ大路がいるチームを相手取ったその力は伊達ではない。下手に気を抜いたら振り解かれかねない、というかそうでなくても振り解かれそうである。
そう思い始めた直後、キッチンからこちらの方へと近づいてくる足音が一つ。
三登「おーおー……派手に抵抗してるなぁ……」
魅津「ふふ!?」(三登!?)
湊「三登君ちょっと助けて、これなんとかしないとほんとに振り解かれる」
三登「ん。そうだね。……魅津さん。」
魅津「……ふん?」(なに?)
そう魅津の正面に立って距離を詰め、三登は両手で湊の耳を塞ぐ。
三登「湊君、ちょっと両耳失礼」
湊「え……?」
三登「魅津さん、────────。」
魅津「……!?」
湊の両耳を塞いで、三登は魅津に何かを小声で伝えている。伝え終わると同時に、湊の両耳は解放され、元通り声も音も聞こえるようになった。
三登「……ってわけだからさ、ボクらのお願い聞いてくれる?断ったらデメリットあるけど、聞いてくれたとしたらデメリットないでしょ?」
魅津「…………。」
数間置いて逡巡、いや葛藤と言うべきだろう。悩みに悩み、魅津は湊の手を外して口を開いた。
魅津「……わかった……ちゃんと食べるから、それはやめて。絶対にやめて。約束守らなかったらマジで全部成人組に暴露して捻り潰してもらうから。」
三登「あはは……ちゃんと守るからそれは勘弁願いたいなぁ……」
湊「……その、三登君?一体何したの?」
三登「ああいや、夜食食べないとエロ本の隠し場所春樹さんにバラすぞってした」
湊「えっ魅津さんそんなの持って」
魅津「持ってるわけないでしょうが。……ちゃんと言うこと聞くからとりあえず離してもらっていい……?」
湊「あ、うん」
諦めが滲む声色でのお願いを聞き届け、湊は拘束を解く。拘束を解かれた魅津は、大人しく自力で共用スペースへと向かった。
湊「……めっちゃ疲れた……けど多分一番疲れてるのは魅津さんだろうなぁ……」
三登「あはは、そういやあの人もあの人でだいぶ強かったね、ごめん……
あと盛り付けだけだから、先座ってて。」
湊「はーい……」
そう三登に促され、湊は共用スペースに、三登は盛り付けのためにキッチンへと向かったのだった。