救い主夜食クラブ〜with魅津編〜後編三登「はいお待たせ、今日の夜食だよ」
湊「待ってました!……って、あれ?」
魅津「冷たい感じなの?」
三登から自分の分を受け取った2人が、不思議そうにしている。その様子を見た三登が、「ああ、それは」と説明し始めた。
三登「最近、サッポロ一番味噌のスープが冷水にも溶けやすいのを利用した冷製ラーメンってやつのレシピ見つけたんだよね。それ作ってみたくて。」
湊「へぇ……!美味しそう!」
魅津「悪くはないけど……できればお腹あっためて寝たかったかな……」
三登「安心して、そう言うと思ってあったかい麦茶仕込んである」
湊「天才かな?」
魅津「……アフターケアまでしっかりしてるのなんか腹立つな……」
三登「あはは、そう言わずにさ。さぁ、どうぞ?」
湊「いただきまーす!」
魅津「……いただきます」
三登に促され、二人は箸を進め始める。そして促した三登もそれを追うように、「いただきます」と挨拶をして夜食を口に運び始める。
魅津「──おいしい。具材のキムチに辛さ控えめのやつ選んでるのも、程よい辛さで美味しく食べやすいし……これ、ごま油とラー油両方とも使ってる?」
三登「正解。魅津さんってそこら辺鋭いよねぇ。」
湊「うん、たまにはこういう冷たいのも悪く無いね……!三登くん、あとでレシピ教えてくれる?」
三登「もちろん。あ、魅津さんもいる?」
魅津「……ちょうだい」
三登「ふふ、はーい」
最初は完全に渋々感MAXだった魅津も、予想外のおいしさに幾分かその雰囲気は和らいでいた。
三登「やっぱ魅津さん夜食部入りたかったんだよね」(ズルズル)
魅津「五月蝿いな、ノートの角で殴るよ」(ズルズルズル)
湊「とは言いつつも二人とも仲良いよねぇ」
魅津「湊君?????」
〜数分後〜
温かい麦茶の入った湯呑から口を離し、魅津は疑問に思っていたことを聞き始める。
魅津「ところでなんだけど」
湊「ん、なんですか?」
魅津「なんで今回拉致するに至ったわけ?」
三登「だって、誘おうもんなら断ってたし、覗いてるところを狙おうもんなら慌てて逃げてたでしょ魅津さん」
魅津「当たり前でしょお暇するよ」
湊「……あー、そりゃ捕まえるしか無いのも納得かも」
魅津「いや湊君頼むから納得しないで?」
三登の無駄に物々しい言い方を突っ込んだ時に湊よりも遥かに早い速度のツッコミが炸裂した。
そのツッコミに物怖じすることなく、会話はまたさらに続く。
湊「でもそうしなきゃ誘えなかったのも事実じゃ無いですか」
魅津「う……ってかそもそも誘ってすら無いでしょ、拉致だよ拉致」
三登「でも危険なことしてないし……ね?」
魅津「いや私の秘密使って脅したの一生恨むからね?」
湊「……」(楽しそうに2人を見ている)
魅津「湊君は楽しそうにこちらを見なんで欲しいかなぁ」
湊「え、だって魅津さんと三登くんすごい仲良さそうで見てて面白いし……」
魅津「君愉悦部かなんか?
……なんか鉄鼠と朱の盆の気持ちが理解できた気がする……」
先ほどから完全にツッコミの調子が絶好調の魅津、主にそれを相手取る三登、時折茶々を入れつつ面白そうに見守る愉悦部湊の三つ巴がここには形成されていた。
が、暫くして魅津がどうやら疲れたらしく、麦茶を飲み終わると同時に席を立つ。
魅津「……もうこんな時間だし寝る……」
三登「ん、そっか。もう流石にボクらも寝るべきだねこれ」
湊「だね。うーん、今日は食べた物もそうだけど、魅津さんがいたせいか新鮮で楽しかったなぁ」
魅津「まぁ、確かに……うん。」
そう魅津は言い、ドアを開ける直前に二人の方へ振り返る。
その表情は、ここまでの流れが嘘かのように満足そうであり、穏やかであった。
魅津「──ありがとう。二人も、早く寝るようにね。
……おやすみ。」
湊「!……うん、おやすみなさい、魅津さん!」
三登「ん、おやすみ。」
……共用スペースのドアを抜けた「彼女」の背中は、返るドアに遮られて見えなくなった。
三登「んじゃ、ボクらも寝よ……あ、器の片付けしてないや」
湊「あ、手伝うよ。折角作ってくれたし」
三登「助かる」
「彼女」の背中を見送った彼らは、忘れかけていた証拠の隠滅をいそいそと始める。
そんな彼らの表情は、普段よりもずっと幸せに満ちた物であった。