縁の先 星瞬く大海。それを映し込む大海。煌めく星が映る水面に身を任せ、メフィラスははるか彼方の星々を見上げていた。ここから見る宇宙は数多の星に溢れ、密集した光群は雲のようだ。しかし一度その空間へと身を投げ出せば、あれほど犇めいていた星の群に出会う事は無くなる。ぽつりぽつりと、銀河と呼ばれる塊に出会うものの、そこに飛び込んでしまえば、また広大な空間が広がっているだけだ。
いる場所で、いる惑星で見える景色が違う。面白い物だと情緒的にとらえながら、今度は自分が身をゆだねている海原へと意識を移す。海面下では海洋生物が動いているのを感じ取る事が出来、それらが時折、体表にぶつかったり、おそらくは齧りつこうとしているのが分かる。命溢れる海面下に、その気配の濃密さに満足感を得た所で、視界の端へ、不似合いな物が映り込んだ事に気づく。
銀色の足が海面からわずかに浮いた場所で静止している。必然、視界は上に向かうと、見下ろすように銀色の巨人が立っていた。
「呑気なものだな、メフィラス」
「これも仕事のうちだよウルトラマン」
かつては繁栄していたその惑星。しかしそこに住まう知的生命体の愚行と、それらを見た光の星の使者が守護を放棄したことで無防備となった。結果はむべなるかな、敵性外星人に蹂躙され尽くした。
「無価値の星となり果てたここを我々メフィラスはあえて治め、地道に手を入れて来た。その結果、陸も空も海も、大気すらかつてのように戻った」
母星の技術と光の星の技術を借りても、戻るのに三百年近くを要した。星間協定や銀河連邦の約定に背かぬよう気を使い、派遣されてきた監視者たる光の星の者達とも友好を築き、協力を得てきた結果である。
「その話と、いま君が海面に浮かんでいる仕事とやらの関係は?」
「海の様子を確認している」
ふざけているのかと思ったが、相手はこういった類の冗談を言う性格ではない。
「この地の生物は海洋から生まれ、あらゆる姿へと進化した。大元である海が戻ったのを、文字通り肌で感じていたのだよ」
「なるほど、それで様子はどうだ」
「満足だ。よくぞここまでと思うほどに。……もっとも、私は全盛期のこの惑星の様子は記録でしか知らないが」
海面から身を起こし、水面に立つ。水平線から薄く光が広がっていく光景が見える。ふと、遠く海岸を見るとこの惑星の知的生命体が並んでいるのが見えた。小さく群れる者達からは歓声が聞こえる。銀色の巨人と黒色の巨人。遠くからでも判る巨躯に小さな生物達は喜び、祈り、深々と感謝する。
「彼らが種として更なる進化を経た場合、兵器転用するのか?」
「彼らが望むならな。そうでないなら、鉱物資源惑星としてこのまま管理し、彼らは変わらずここで暮らせば良い。……君は、君達光の星の者は、例え彼らが望んだとしても兵器転用は反対だろう?」
「本星はな。私自身は構わないと思っている。無論強制には反対だが、自らが望むならそれもまた進化の一つだ。海を出た生命体の一種族が、光の海へ出ていくのも良いだろう」
夜明けの薄紅色の空の下でも星は見える。空を見上げ、今だ進化途上の現生人類を眺めたメフィラスは、その視線をさらにウルトラマンへと向ける。
「帰るか。そろそろ仕事が溜まりだしている」
「……仕事と言っていたが、結局のところ息抜きだろう」
「仕事ではあったよ。息抜きも兼ねてはいたが、君もだろう わざわざ来なくとも良かった筈だ」
「ああそうだ。私も息抜きだ。誰にも言わず知られず……子供の頃を思い出すな」
「親の目を盗んでよく禍威獣の幼体を採取していたな」
少しばかり懐かしい思い出を語り、やがて外星人達はいるべき場所へと姿を移す。
衛星軌道上に置かれた総督府、その部屋から、メフィラスは足下の青と白の美しい惑星、地球を満足気に眺めたのである。