スパイラル ゆっくり、そう、ゆっくり、音色は高みに。
同じフレーズ、同じメロディ。それなのに、調べは違って聞こえる。螺旋の階段を上がるように、天へと向かうように。
外大陸の文化に触れたという吟遊詩人と交流を持ったルカーンが新たにつくった歌は、これまでの詩吟とはまるで違うものだった。
物語ではない。誰かを称えるものでもない。恋の歌でもない。曖昧な歌詞、繰り返されるフレーズ。
「……どうかな?」
試奏なんだけど聞いてくれるかな、と請われるままにジルはルカーンの新曲を聞いた。そうして心の中に浮かんだのが、先の想いだった。
「不思議な曲ね……」
素敵な曲、とは言い切れなかった。不思議で、心の何処かに引っかかる曲。忘れた頃に思い出しそうだった。普段は心の奥底で眠っている感情。──それを無理やり揺り叩き起こされて、突き付けられたなら。そんな時に聞いたなら、涙が溢れただろう。
2089