花憐日和3ワンドロ お題『街の灯り』「兄さん、お待たせ」
寒空の下、花城がホットワインを持って戻ってきた。
にぎやかな場所から少し離れたベンチに座っていた謝憐は「ありがとう」と微笑んでカップを受け取った。
「何を見てたの?」
「ん? ああ、イルミネーションが綺麗だなって」
二人がいるのは、デートスポットとしても人気の公園である。
夜遅い時間になっても行きかうカップルの数は減らず、みんな幸せそうに光り輝く木々を見上げたり写真を撮ったりしている。
花城と付き合う前は、イルミネーションなんて興味がなかった。
綺麗なのはわかるが、寒い中わざわざ見に行くようなものだろうかと思っていた。
それが今では、毎年この季節になるとあちこちのライトアップイベントを見に行くくらいになっているのだから不思議なものだ。
謝憐はホットワインを一口すすって、となりに座る花城を見上げた。
「三郎は最初からこういうイベントが好きだったよね」
「イルミネーションのこと?」
「そう。付き合って初めての冬も誘ってくれただろう」
「ああ、あのすごく寒かった時」
花城がくつくつと喉の奥で笑った。
互いに初めての恋人で、何もかもが不慣れだった頃の話だ。
真冬の夜のデートなんてしたことがなかった謝憐は、うっかり薄着で出てきてしまい、見事に風邪を引いた。
遅れてやってきた花城はデートの間謝憐にコートを貸し、これまた見事に風邪を引いた。
結局その年は年末年始を二人して寝込んで過ごすことになったのだった。
今では笑い話である。
「どうしてこういうイベントが好きなんだ?」
「イルミネーションを見ている兄さんが綺麗だから」
目を見ながら即答され、謝憐はじわじわと頬を熱くした。
そんな理由だとは思わなかった……。
毎年楽しそうにデートを計画しているから、花城はこの手のロマンチックなイベントが好きなのだろうと思っていた。
赤くなる顔を両手で隠したかったけれど、両手はホットワインのカップでふさがっている。
謝憐はどうしようもなくなって花城の肩に額を押しつけた。
「急にそういうこと言わないで……」
「なぜ? 本当のことだよ」
肩が小刻みに揺れて、花城が笑っていることを伝えてくる。謝憐は顔を上げ、花城をにらんだ。
「言っとくけど、君だってイルミネーションが似合うよ」
「そう? どんな風に?」
「君は格好いいから華やかな場所が似合うし、キラキラした中にいると映画俳優みたいで見とれてしまうし、ライトアップに負けないくらいまぶしくて、すごくす……てき……」
言えば言うほど、花城の口元がどんどん上がっていく。
乗せられたと気づいた時には、花城はもう歯を見せて笑っていた。
謝憐は負けを悟り、再び花城の肩口に顔をうずめた。
「すごく、何? 聞こえなかった。もう一度言って、兄さん」
「……言わない」
「言ってくれたら、この後とっておきのイルミネーションスポットに連れていってあげる。人があまり来ない穴場だから、いくらでも俺に見とれてていいよ」
完全にからかい口調である。
そもそも謝憐が答えようが拒否しようが、花城は謝憐を最高の場所に連れていってくれるに違いないのだ。
……でも、まあ、こんな日もいいか。
心の中でつぶやいて、花城の耳元に唇を寄せる。
「……君はすごく、素敵」
笑みを大きくした花城が、顔を傾けて謝憐の唇をふさぐ。
互いの吐息とワインの残り香をゆっくり味わって、顔を離すとどちらからともなく笑い合った。
「行こう、兄さん」
「うん」
差し出された手をためらいなく取り、立ち上がる。
色あざやかに輝くまぶしい景色の中へ、二人は歩き出した。