2022/3/20司冬ワンドロワンライ「春の便り」「花束」 互いにオフが重なった休日を、司と冬弥は大いに楽しんだ。前々から気になっていた映画を見に行き、ゲームセンターでお菓子やぬいぐるみを取っては分け合い、ふらりと立ち寄った書店ではおすすめの本を選び合った。そうして思い思いの一日を過ごした帰り道のことだった。
「ん?もう桜が咲いているのか」
陽が傾き、空が橙色に染まり始める時間。司は頭上の樹を眺めながらそう呟いた。冬弥は司の視線の先を辿ると、司の発言をやんわりと訂正した。
「これは桜ではなく梅ですね。桜は花弁の先に切り込みが入っているもので、梅は花弁が丸くなっているものです」
「相変わらず冬弥は物知りだな。これは梅の花だったのか」
柔い薄紅色の花を二人で眺める。小さく可憐な花弁が、夕陽に照らされ輝いているように見えた。
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