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    Saha

    こんな辺鄙な所にようこそ(誰も来てないかも)
    らくがき置き場です。あと文字の練習。とってもお試し。

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    Saha

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    ソ生存IF世界⇔映画軸のリョ三④
    絵を描いてる場合じゃなかったのでのんび〜り書いてた文字の続きをアップ。
    ソ生存世界に飛ばされたやさグレ三の話。
    深く考えてないのでひたすら都合の良い展開です。とっても途中。
    こんなことがあったら楽しいな(趣旨)

    ソ生存IF世界と映画軸の三が入れ替わったリョ三④◆◆◆


    マンガで描いたリョ三+ソの設定をベースにしつつ話の都合上ちょっと改変。
    ソーちゃん…×大学生→社会人
    ほぼ同じ設定だけど別軸パラレル。
    色々雑なのでツッコミながら書いてます。
    読んでくださる奇特な方がいらっしゃったら拝むしかない。


    ◆◆◆




    ……!…

    …………ッ……!!


    なんだ。
    うるせえな。
    何をそんなに必死にわめいてんだ。

    ………サン!!

    耳元で大声出すな。頭に響く……

    「……って………」
    「三井サンッッ!!!!」
    「…………?」

    ぼやけていた視界が徐々に像を結んでいく。
    覆い被さるようにこちらを見つめる人物には見覚えがあった。
    オレが屋上に呼び出してシメようとしていた一年下の後輩、宮城リョータだ。
    ズキリと後頭部が痛む。
    そうだ、オレはさっきこいつを殴って、殴り返されて……

    「ッ、三井サン、大丈夫?!頭打ってるかも…!!」
    「…………あ?」

    なんだ、ここは……体育館?
    ぐるりと見渡せば宮城以外にも沢山の生徒が居た。
    その手元にはかつては見慣れた、いまや縁遠くなったバスケットボール。

    「んだ、コレ…」
    「ごめん、派手にぶつかっちまって……立てる?」

    身体を起こそうとするオレの背中を支えてきた宮城に驚き、その手を跳ね除ける。

    「触んなッッ!!!」
    「……ッ!?」
    「何だここは、テメエ、オレに一体何を……ッッ……ぐ……」
    「三井サン!!!」

    ズキリと痛む後頭部、何故か居ない徳男たち。
    何よりバスケ部の連中に囲まれていては流石に分が悪い。
    一旦ここから逃げ出さなければ。
    目の前の宮城を突き飛ばし、出口に向かって走り始めたがすぐに後ろから羽交い締めにされた。

    「くっそ、離せッッ!!」
    「ちょ、待って!!どうしたの?!三井サン」
    「おい、どうした三井?」
    「…もしかしたら、頭を打って記憶が混乱してるのか?」

    後ろから宮城の声、別の方向から知らない声と聞き覚えのある声が聞こえた。
    目の前に居る部員たちは皆驚いたような表情でこちらを見つめている。

    「木暮さん、なんか三井サンやばいんで保健室行ってきます」
    「何言ってんだテメェコラ!!!」
    「わっ!ああ……これは確かにやばいな。オレも一緒に行くよ」
    「助かります」

    何を言ってるんだ、こいつらは。
    保健室?バカ言うなよ宮城。オレはお前を殴ってボコボコにしようとしてんだぞ。
    振り解こうとめちゃくちゃに暴れたら、頭を振りすぎたのか痛みが増してどんどん気が遠くなる。
    ヤバい、落ちる………



    ◆◆◆



    「……そうなんす、三井サンち親がすぐ帰ってこれなくて。先生も居ないし、オレ念のため病院付き添うんで」
    「そうか、宮城なら安心なんだが…なんか三井の様子が変だから気になるな…」
    「ですよね。大丈夫かな…ちょっと混乱してるだけならいいんすけど……」

    気がつくとオレはベッドに寝かされていた。
    気付かれないよう薄目で様子を伺うとそこは保健室で、そばで宮城と木暮が話をしている。

    病院……?なんの話だ。
    まさかオレを連れて行こうってんじゃねえだろうな。
    何を考えてるんだ宮城のやつ。

    「オレ、すぐ着替えて荷物取ってきます」
    「ああ。三井はオレが見てるから」

    チャンスだ。どうやら宮城は部室へ向かったらしい。
    半分閉められていたカーテンから隙を伺い、足音が去るのを待ってからそっとベッドを抜け出した。

    「…三井?」

    こちらに来ようとしていた木暮に、カーテンに隠れて低い位置から体当たりをかます。

    「おわぁッ?!」

    不意をつかれて大きく体勢を崩した木暮を押しのけ、廊下へと走り出す。
    後方からドタンと大きな物音と、自分の名を叫ぶ声が聞こえる。
    くそ、徳男たちはどこなんだよっ。

    息を切らしながら正門を出て、ひたすら道を走る。
    しばらくして追っ手が来ていないか後ろを振り向いた瞬間、曲がり角で人にぶつかってしまった。

    「って………!!」
    「っ、すんませ…って、おお寿!」

    呼ばれて見上げた先は体格の良い若い男で、どこかで見たような顔だが全く知らない人物だ。
    誰だコイツ。なんでオレを知ってんだ。

    「なんだ、元気そうじゃねえか。リョータのやつ大袈裟だなあ」
    「ああ?」
    「ソーちゃん!!!その人捕まえて!!!!」
    「え?」

    背後から大声で叫ぶ宮城の声が聞こえる。
    こいつも仲間か。舌打ちをして男の脇をすり抜けようとしたがガシリと腕を捕まえられた。

    「……ッッ!!!クソ、離せよオラァ!!!」
    「わっ、なんだぁずいぶん激しいな?!」
    「離さないでよソーちゃん!!」

    自分より背が高い男は力も強く、抑え込まれて身動きが取れない。
    あっという間に宮城に追いつかれてしまった。

    「ハア…ハア……。どうしちまったんだよ、アンタ……」
    「うっせえ!!離さねえとぶっ殺すぞコラ!!!」
    「わっ、暴れんなって。何怒ってんだ?」
    「落ち着いて三井サン!!」

    どうもこうもねえ。何なんだお前ら。
    オレは宮城に嵌められたのか?
    生意気な後輩をボコボコにしてやるつもりが、返り討ちに合うなんて冗談じゃねえ。

    「テメェ離しやがれ、舐めやがって!!このクソガキが!!!」
    「ちょ、ホントどうしたの…」
    「なあリョータ、なんか縛るもんねえ?」
    「は?えっと、タオルとかなら」
    「寿の目塞いで。あと両手も縛れ」
    「あぁ!??フザケんな!!!」

    暴れても男の腕は振り解けず、目をタオルで覆われて視界を奪われる。
    そのうちに両手首も縛られてしまった。

    「よし、オレが寿を背負ったらオレの胴体と足を縛れ」
    「わかった。ゴメンね三井サン」
    「すぐ病院いくぞ。暴れてっから落ちないように側についてくれ」

    完全に身動きが取れなくなったオレは、あっという間に病院に運ばれてしまった。



    ◆◆◆



    2人がかりで病院に運ばれてしまったが、頭部にはコブすら見つからず待合でも暴れたためロクな検査もされなかった。当然、早々に診察室を追い出された。

    「いい加減離せ!!何なんだテメエらは」
    「クソ、あのヤブ医者…もうちょっとちゃんと診ろよな」
    「う〜ん、寿がこんなんじゃ無理じゃねえ?」
    「ねえ、三井サン。アンタ頭打っておかしくなってんの。もっかい診てもらお?」

    オレの話などまるで無視してわけのわからない事を言う宮城と男に血管がブチ切れそうだ。

    「なってねえよ、バカにしてんのか!!頭おかしいのはテメーらだろうが!!!
    宮城ィ、てめえもっかい殴られねえとわかんねえようだな」
    「えぇ?!オレアンタに殴られてなんかねーし!」
    「なんだあ、喧嘩してたのか?ちゃんと謝れよリョータぁ」
    「してねえって!!え、なに、三井サンオレに怒ってんの?!」
    「たりめーだろ!!!てめーはボコボコにしてやんねえと気が済まねえんだよ!!」

    ナニ何なんで?!と叫びながら慌てていた宮城だったが、突然ハッとしたように動きが止まった。

    「え、と……。三井サン、ゴメン。最近ちょっとだけ、アンタのこと避けてた…かも。で、でも別にアンタが悪いとかじゃなくてっ!!
    ……そんなに怒らせてたって知らなかったから……ホントゴメン」

    宮城から謎の謝罪が入り、ますます困惑する。
    お前がオレを避けてたなんて当たり前だろ。
    自分のことをシメようとしてる奴なんてよ。

    「なあ。ずっと思ってたんだけど…寿、寒くねえの?外出たら風邪ひくぞぉ」

    いまだに強い力でオレの腕を握り拘束する男が呑気な調子で疑問を口にする。
    病院の中は暖かいが、今は雪もちらつく季節だ。
    あまりに異常事態で気にする暇もなかったが、
    今のオレの格好はTシャツに短パン、それにバッシュ。
    まるで自分もあの体育館でバスケをしていたような出立ちだ。
    そしてスースーする首周り。両手で顔の横を掬い上げても、いつも手に絡む長い髪の感触はない。

    「………んだ、これ………」
    「どしたー?やっぱ寒いか」
    「あっ、三井サンの着替え持ってきてたんだった!」

    いそいそとカバンから出した学ランを羽織らせてくる宮城をじっと見つめる。
    何かがおかしい。今の状況は一体何だ?
    本気で心配しているような宮城と視線がぶつかり、思わず口からあり得ない言葉がこぼれた。

    「……おい……オレ、まさか。……バスケしてんのか?」
    「ハァ??!何言ってんの、当たり前でしょ!!」
    「…これは……そ、か。はっ…、なんだよ…」

    何回も見た夢だ。
    手術した足はあっという間に治って、すぐにバスケ部に復帰して。
    オレは今もみんなから期待されていて赤木にだって負けてなんかない。

    そして、夢から覚めたら。

    「……もう解放してくれ……」

    バスケは、捨てたんだ。


    ポツリと言葉が溢れた瞬間、両肩に強い衝撃が走って思わずうめく。
    俯いていた顔を上げると宮城に肩を掴まれ真正面から睨みつけられていた。

    「…ッ…、な」
    「ねえ、三井サン。マジでどうしたの。まさか、また膝が悪くなったりした?」
    「………!!」

    なんで、宮城がオレの故障を知っている?
    あの時お前はまだ湘北に入ってきてねえだろ。

    「自暴自棄になってないよね?オレと約束したでしょ」
    「……?」
    「焦らずゆっくり治してオレとバスケしようって言ったじゃん。
    大丈夫だよ。アンタから、バスケは絶対に奪われたりなんかしない」
    「…………」

    なんで。なんでお前がそんなに必死に。

    「オレ、は、そんな約束してねえ………」
    「え」

    なんて都合のいい夢なんだ。
    宮城とは暴力でしか関わりがないってのに、そんなに真剣にオレを励ます役にされるなんて。
    おめでたい自分の頭に反吐が出る。
    自分を思い切りぶん殴ったら夢から覚めるだろうか。そう思った時、隣で様子を見つめていた男がふいに口をひらいた。

    「………なあ寿。お前、もしかして記憶喪失か?」
    「え!!そうなの?!三井サン」
    「……さっきから、何なんだよテメエは。気安く名前呼びやがって。オメーなんか知らねえよ」

    そうだ。こいつは誰なんだ。
    雰囲気からして年上のようだが、こいつもバスケ部員だろうか。
    自分が入部した時にはこんな奴居なかった気がする。
    眠たそうな目が僅かに見開かれる。
    よく見ると、男は短く立ち上げた髪の左側だけを刈り上げている。
    勝手に作り出した妄想にしてはやけに特徴的な外見をしていた。

    「な、に言ってんの三井サン。ソーちゃんでしょ!宮城ソータ!!」
    「はあ?宮城……?てめーの兄弟かよ」

    完全に初対面にも関わらずどこかで見たような気がしたのはそのせいか。
    身長はまるっきり似ていないが、顔の系統は確かに似ている。

    「寿、リョータの事は覚えてんのか?」
    「あ?今年入学した生意気な一年だろ。は…っ、こんなチビがバスケ部期待の新人だなんて笑わせてくれるぜ」

    吐き捨てるように言ってやったら、宮城の野郎は口をポカンと半開きにしてこれでもかと目を丸くしていた。

    「……ねえ。アンタ、誰?」
    「あぁ?!」
    「ぶつかる前は確かに三井サンだったもん。オレが捕まえる前に入れ替わった?」

    何をそんなに驚いているのか知らないが、変わった設定の夢だ。
    宮城の知るオレは全く違う中身だとでも言いたいのか。

    「入れ替わってるわけねえだろ。記憶も無くなっちゃいねえ。
    オレはバスケなんかやってねえし、ついさっきまでお前を屋上に呼び出してシメてやろうとしてただろうが」
    「はぁ?!オレら一緒に体育館でバスケしてたんだけど?!」
    「クソ……くだらねえ…なんだ、この変な夢は…」

    もう十分だ。勘弁してくれ。
    何度捨ててもちっとも逃れられない。
    夢なら早く醒めてくれ
    オレはもう………

    「なあ寿。お前オレには会ったことがねえけど、リョータは知ってんだろ。
    いつ出会ったか覚えてるか?」
    「………あ?そんなハッキリとは覚えてねーよ」
    「場所は?」
    「学校に決まってんだろ」
    「え……」
    「お前はバスケやってねえのか?」
    「……んなもん、つまんなくて辞めちまった」

    淡々と質問してくる男に投げやりに答えている横で、宮城はずっと驚愕の表情を浮かべている。

    「お前は湘北高校2年の三井寿だよな?」
    「だからなんでテメーがオレを知ってんだよ」
    「オレとリョータがお前に会ったのは、お前が中学生ん時だ」
    「ハァ?」
    「三井サン、記憶喪失って言うか……記憶、書き変わってねえ?」

    何言ってんだこいつら意味わかんねえ。
    書き変わってんのはお前らだろ。
    でもまあそうか。夢だもんな……
    夢ならめちゃくちゃでも仕方ない。

    「でもさ、やっぱりこの人…三井サンにしか見えねーんだけど」
    「オレも寿にしか見えねえけど。うーん…まあ元気そうだし、とりあえず一旦帰るか」

    宮城に着替えを手渡され、トイレへ向かう。
    着替えてからこっそり抜け出そうと思ったがしっかり入り口で見張られていた。
    行きみたいに縛られてはいないが、逃げ出せないよう両端を宮城たちに挟まれる。
    回り道をして撒こうかと思ったが、間違った道を行くとすぐに訂正が入った。
    なんでオレの家を知ってるんだよ。
    そしてあろうことかそのまま見慣れた一軒家まで付いてきやがった。

    「もういいだろうが!サッサと帰れ」

    掴まれた腕を振り解き、鍵を探そうとしてハタと気づく。
    ……鍵はどこだ?
    そもそも夢の中でも必要なのか?
    とりあえずポケットに手を突っ込んでみるが見つからない。
    宮城が持っていたオレの荷物ってのに入ってんのか。
    そう思った時、後ろから手が伸びてきてドアに鍵が差し込まれる。

    「………な」
    「さみーから早く入ろうぜ。な、リョータ」
    「うん……。でもなんかこんな三井サンと一緒で大丈夫かなあ」

    あっけに取られるオレをドアの内側に押し込み、宮城と男も当たり前のように家の中に入ってきた。

    「な、んだテメエら!!オレの家だぞ?!」
    「寿の親御さん、今海外行ってんだよ。寿は部活あるから行かねえって。でも心配だったんだろ。
    リョータに泊まりにきて欲しいって頼まれたんだけどよ、コイツ1人じゃ無理だって…」
    「ちょ、ソーちゃん!!!」

    は?どういうことだ?

    「だから、しばらくオレらは寿ん家で合宿すんの」
    「あぁ?!いらねえよ、帰れ!!」

    宮城とその兄弟と一緒に生活するだと?なんだその状況、ありえねえ。
    玄関に追い返そうとしたが男に手を取られ、二階へと連行される。
    迷いなくオレの部屋の前まで行き、扉を開けた。

    「……んだ、この、部屋……」

    いつもの殺風景な部屋とは違う。
    散らばった雑誌は週バス。
    壁に貼られた、捨てたはずのポスター。
    クローゼットに仕舞い込んだ賞状やメダル、 MVPを取ったときの写真はきちんと飾られていた。
    そして、よく外に持っていった使い慣れたバスケットボール。

    「お、これなんかどうだ?」

    並んでいた写真立てを手に取った男が、それをこちらに見せながら言った。

    「ほら、これ。寿とリョータの部活の写真」
    「…………」
    「ソーちゃんが遊びに来たときのやつね」
    「そうそう。マネージャーが使い捨てカメラで撮ろうっつってな」
    「3人一緒なのが嬉しいから飾ってるって言ってたよね」

    写真では見覚えのある体育館に部員達が並んでいる。同じ中学からの仲間や知らない顔も沢山いた。
    髪の短いオレがいる。
    赤木や木暮、そして生意気そうな宮城の顔。
    1番後ろの端で笑う、目の前の男。

    「んだ、これ……」
    「三井サン、これいつのかわかんねえ?」
    「こんなの、知らねえ。お前ら、夢の中のくせに主張が激しいんだよ…!」
    「は??夢?」

    自分のバスケへの未練を何度も何度も突きつけられて、まるで地獄のようだ。
    忘れたいんだよオレは。
    早く関係のない所へ行きたい。今すぐに。
    そうだ……そこから落ちたら流石に目が覚めるんじゃねえか。
    一刻も早くこの状況から解放されたかったオレは、後ろに居た宮城を押し退けて階段へと飛び込んだ。




    ◆◆◆



    ………痛え。

    いや……そんなに痛くない……?
    夢だもんな。
    でもなんか身体が窮屈だ。身動きが取れない。

    「寿!!リョータ!!!」

    ドタドタと足音を響かせながら誰かが叫んでいる。
    ……リョータ?

    「………う……」

    間近で聴こえた呻き声に完全に覚醒する。
    オレは自宅の階段の下で宮城に抱きしめられていた。

    「オイ!!2人とも大丈夫か?!」
    「……ん、……、……ッ三井サン?!三井サンは??!」

    ガバッと身を起こした宮城が慌ててオレの無事を確認する。

    「三井サン怪我してねえ?!どっか痛いところは?!!」
    「…………ね、え……」
    「はあ〜、良かった………」

    宮城が泣きそうな顔でオレを抱きしめる。
    お前、まさかオレを庇って一緒に落ちたのか?

    「ほんと勘弁してよ……オレ、心臓止まるかと思った」

    何でお前がそんなに身体はってんだよ。
    何で、オレなんかを、そんな大事な奴みてえに。

    「オレの心臓も止まるかと思ったんだが。リョータ、お前も怪我ないか?」
    「あはは…ゴメン、全然大丈夫みてえ。オレって強運…」
    「ホントお前、寿の事になると無茶するよな〜」
    「えっ?!ちょっと何言ってんのソーちゃん!!」

    バチン!!!

    突然鳴り響いた音に、宮城兄弟が振り返る。

    「…………痛え」
    「ハ?!当たり前でしょ!!何やってんの三井サン!!」

    自分で叩いた頬がジンジンと痛む。
    階段から落ちた衝撃よりも全然痛かった。

    「醒めねえ……」
    「何が!??」
    「この、夢から……」

    そうだ、まるで世界が入れ替わったような。
    別次元に来てしまったような。
    まさか、そんなことが。

    「なあ寿。お前は確かに三井寿みたいだが、オレらの知ってる寿とはちょっとちがうな?」
    「……お前のことは知らねえけど、オレの知ってる宮城もこんなんじゃねえ……。
    …宮城はオレを庇ったりなんかしない。ここはまるで夢か別の世界だ」
    「別世界??ハハ、まさかあ……。まあでも今のアンタ、たしかに別人みたいに柄悪ぃよね。まるで不良みたい」
    「………不良だったらなんか文句あんのか」

    そう言ってやれば宮城は嘘でしょ!?って顔をしてこちらを見つめてくるからギロッと睨み返してやった。
    隣の男はまじまじとこちらの顔を見つめて、うーん確かにちょっとキツそうだな〜とか不良の寿かあ〜などと呟いている。

    「信じられねえけど、寿の言動見てると別の世界って方がしっくりくるかもなあ」
    「え〜、マジかよ……!?……ね、ねえ、三井サンの知ってるオレってどんなの?」

    オレは宮城に出会ってから、今までの事を全部話した。
    その度に宮城はハァ?!とかええっ!?とかうるさかったけど、
    隣の男は無表情で黙って聴いていた。
    時折挟まれる質問にも、素直に答えた。
    バスケを、辞めてしまった理由も。
    階段から落ちてもダメなら、他に知り合いもいない今、この状況をどうしていいかもう何もわからなかった。

    2人はしばらく何とも言えない表情で話を聴いていたが、
    バスケをやめてしまった後どうしていたかを淡々と話していたら、いきなり宮城に抱きしめられた。

    「……ねえ、なんで…っ!なんで、誰か居なかったのかよ。アンタの事、誰か連れ戻せなかったの!?」
    「…………何で泣きそうなんだよ。馬鹿じゃねえの」
    「うっせえよ!クソ、何でオレ、アンタと喧嘩してんだよ。なんでオレ、そこに居ねえの……」
    「…………」

    オレを抱きしめる宮城の涙声に、心臓がぎゅっとなる。
    なんだよその声。お前にとって、オレは何なんだよ。

    「なあ寿、膝はもう良いのか?」
    「……わかんねえ。なげーこと病院行ってねえし…」
    「!三井サン、膝診てもらいに行こ!!治ってるかもしれないじゃん」
    「……いや、多分意味ねえ」

    だって、きっとこの身体はオレのものじゃない。
    さっきトイレの鏡で見た自分は、見慣れた姿ではなかった。

    「これが夢か別世界かわかんねえけど、この身体はお前らの知ってるオレのものみてえだな」

    短い髪にずっとスポーツをしていただろう締まった身体つき。
    今のオレとは全然違うその身体が、なんだか悔しくてたまらない。

    「たしかに、見た目だけならほんとそのままだよね」
    「うーん、精神だけ入れ替わったみたいな?」
    「えっ!もしそうならこっちの三井サンは?!まさか不良の世界の三井サンと入れ替わってんの?!」
    「…さあな」

    三井サンがオレと喧嘩して怪我してたらどうしよう、と真っ青になる宮城を見ながら、
    まあそれは大丈夫だろうなと思う。
    オレから一方的に売りつけた喧嘩だ。万が一入れ替わってたとしても、敵意がなければ宮城がオレを殴る意味もない。
    そう伝えれば、宮城は少しホッとした顔をした。

    「でもどうしよ。三井サンどうやったら戻れんだろ…」
    「そうだなあ。じゃ、とりあえずバスケすっか!な、寿ぃ」
    「ハァ?」
    「しばらくこっちの寿のフリをするしかねえだろ?こっちじゃお前はバスケ部なんだから、ちゃんとできるか確かめねえとなあ」

    ニコニコとした男の笑顔を見ながら、それお前がやりてえだけじゃねえのと思う。
    もう二度と関わることもないと思っていたバスケ。
    醒めない夢の中なら…別の世界の自分なら。
    もう一度、ボールに触れることができるだろうか。

    「いいね。三井サン、身体が大丈夫ならやろうよ。
    アンタがバスケできないなんてオレが無理だよ」
    「だから、何でてめーが…」
    「…お願い」

    何て顔してんだてめえは。そんなにこの世界のオレが大事かよ。
    歪んでない眉毛に敵意のない眼差し。
    宮城って、よく見たら意外と童顔なんだな。生意気そうな髪型と表情のせいで全く気づかなかった。

    「なーに見つめ合ってんだお前ら。そういうのはオレの居ないとこでやれよお」
    「「は!?」」
    「よーし、サッサと着替えてこいよ〜。オレは寿の親御さんにとりあえず大丈夫って電話で伝えとくからな」

    真っ赤になった宮城を見つめながらまさかな、と思う。
    どんなにこの世界の宮城とオレの仲が良かろうが、そんな馬鹿なことがあるわけがない。



    ◆◆◆
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