監視対象・江の者③ 誰も居ない夜の実務作業部屋。静けさが恋しくなって、この俺、山姥切長義は聖夜の宴からこの部屋へと抜け出してきた。ついでだから、江の者たちの最新の観察報告も政府に提出してしまおうか。俺は実務に使うものとは別の端末を立ち上げて、編集途中の文書ファイルを開いた。
江の者の中でも、特に重要な観察対象は豊前江である。最近、新たに顕現した五月雨江・村雲江をともに『すていじのれっすん』、いわば歌舞音曲の稽古に誘って、そこからすぐにその二人も江の仲間としてまとめ上げていたようだ。そのような情報を踏まえると、やはり豊前江のその求心力には目を瞠るものがあると思う。
その豊前江は今、同じ江の男士である松井江に想いを寄せている。その恋慕の情は、きっと豊前江と本丸を繋ぎ止める鎖になるだろう。そう考えて、俺はその恋が少しでも長く保つよう立ち回っている。
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