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    ayu_var99

    @ayu_var99

    ほぼマホシコ

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    ayu_var99

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    カビマホとなんでもない夜の小話

     他の誰にも邪魔されずに、いいものを独り占めできるのは実に良い気分だ。
     上機嫌で船から少し身を乗り出す。ひんやりとした夜風がマホロアの頬を撫ぜて通り過ぎ、続いて彼のマントを靡かせた。

     ポップスターはプププランドの夜空を、空色の天駆ける船───ローアがゆったりと泳いでいる。
     大洋を揺蕩う鯨のようなローアは、陽が高く昇っていればよく目立ったはずだ。しかし皆が寝静まった真夜中には、雄大な影に気付く者はひとりとしていない。このために夜半にわざわざ船を出して、高く高く飛ばせたというものである。
     ときおり眠い目をこすっているマホロアをこうも突き動かしたのは、ポップスターから臨む満天の星空の美しさであった。多くの世界を旅してきて、同じ数だけの夜空を見て回ったマホロアは、ポップスターのそれが格別であることを身をもって知っている。
     今この絶景は自分ただひとりだけのもの、という愉悦を甘露に、彼は広大な星の海に長いこと釘付けになっていた。

    「青いジュースに、わたアメとコンペイトウ浮かべてルみたいダナァ」
     星と薄い雲とに覆われた空をぼんやり眺めながら己が紡いだ言葉のあんまりな間抜けさに、マホロアは思わず眉間へ深い皺を寄せた。
    「……って、食べモノばっかりジャン。ダレカサンの食い意地が、うつったカナァ?」
     自分には似つかわしくない、と平和ボケも甚だしい連想を振り払うべく、何か別のものに意識を向けようと咄嗟に思索した。
     ───そういえばあの頃にも、こんなふうにローアに乗って空を見上げたことが何度かだけあったっけ、と自然に記憶が手繰り寄せられる。
     「こんなふう」になるよりも前、遥か彼方の星に、ずっとひとりでいた時のことだ。
     脳裏を過ったのは、だが現在のマホロアが日常で見ている景色とはまるで異なるものだらけだった。

     主を喪っても無機質に営みを続ける、食べも眠りもしない住民たち。
     激しく隆起し、えぐれ、荒れ果てた大地。
     流れ星の代わりに絶え間なく空から降り注ぐ炎の塊。
     去来する鋼鉄の故郷の光景は、ポップスターとは何もかもが対象的で、足を踏み入れようとする者をことごとく阻み拒むかのようだった。
     まして、膨らみきった夢と期待を抱えてかの地に降り立った、滑稽な愚か者の浮ついたココロなど。

     気付けば視線は空から落ち、フードの隙間から見えるのは船の手摺に掛けた自らの手だけになっていた。つい先刻までの高揚は、仄暗い思い出に連れ去られてとっくにどこか遠くへ消え失せてしまっている。
     ひとりでいるのは嫌いではないはずだ。それなのに、今こうしている自分が、急にひどくちっぽけで惨めに思えてきた。
     夜風で冷えた手に弱々しく、きゅうと力が籠もる。

    「……カービィ」

     届くはずがない。
     元より誰もいない時をねらって独占せしめた夜凪だ。
     それでも、祈るように小さく呼ぶのを止められなかった。

     天にたくさん散らばるものとは別の、もっともっと眩い光に、瞼の上のあたりを照らされた気がした。覚えのある輝きだ。
     ばっと跳ね起きるように顔を上げて目に入ったのは、ワープスターに身体を預けたずんぐりピンクが、マホロアを覗き込む姿だった。

    「カ……カービィ?」
     今度こそは彼そのひとに向けて、名前を呼ぶ。
     呼びかけられてもなお呆けた顔をしてこちらを見つめるカービィに、マホロアはおずおずと訊いた。
    「いま、マヨナカダヨ? ボクのコト……ワザワザ探して、キテくれたの? カービィ」
    「ううん」
     即答。かすかな期待を、あっけらかんと真正面からぶち壊される。マホロアは大げさに溜め息を吐いて耳を垂らした。
    「エ……あ、ソウ。ジャア、なんなのさ~」
    「おさんぽしてたら、たまたまローアを見つけたんだよ」
     うなだれるマホロアを意にも介さず、カービィは空を指差して続ける。
    「ほら、今夜のお星さま、すっごくキレイでしょ? ぼく、ひとりのおさんぽも好きだけど、これだけキレイなら誰かといっしょにお空飛びたいなあって。でも、みーんな、ぐっすりでさあ……」
     口を尖らせたかと思えば、ぱっと笑いかけて言った。
    「だから、マホロアに会えてよかったよ!」

     胸の奥が、じわと熱くなるのを感じた。
     黄色の瞳がわずかに大きくなる。だがやはりカービィは気付かないまま、ぴょんとローアの甲板へ飛び降りてきて、弾むような声をさらにマホロアに浴びせた。
    「もしかしてマホロアも、ぼくとお星さま見たかったの?」
    「エェ? チガウヨォ」
    「だってさっきぼくの名前よんでた!」
    「アレは、チガくテ……」
     いつから見ていた、と毒づくよりも先に、口をついて稚拙な否定の言葉が出た。ただの意地だ。
     何も考えてなさそうなのんきな顔をしているくせに、たまにこうなのだから調子を乱される。
    「ね」
     ぎゅっと、不意に手を握られる。芯まで冷えた身体に、温かさが心地よかった。
    「いっしょにおさんぽ行こ、マホロア!」

    「……ホ~ント。キミって……、……」
    「?」
     キョトンとして首を傾げられる。たまらず視線を青い瞳より下へと外した。マホロアの手は、まだカービィにしっかりと掴まれたままだ。彼の体温がじんわりと移ってきている。
     
     自分ではない他の誰かの姿を先に認めていれば、今ごろ別の場所で、そのヒトと星を眺めていたはずだ。
     誰にも会えなかったならば、諦めてうちに帰り、ひとりで屋根にでも座って煙突の隣で空を見上げていただろうか。
     そういうヤツだと知っている。
     今夜のことは偶然だと、さっき言っていた。
     分かっている。
     だがそんなこと、今はどうでもよかった。

    「……クックック。マァ、ちょうどヒマしてたトコだし。それに、ボクはカービィのベストフレンズだカラネェ」
     言いながら、それとなしに手を振り解くため、くるりと回った。
     残された温かさを握り込んで、目の前のトモダチに笑ってみせる。
    「シカタナイから、つきあってアゲルヨォ!」
     
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