おさない憧憬「俺は、お前の父親じゃないし、」
いいこだ、と頭を撫でる手のひらで、その体を暴きたくなる。大切にしたくて、傷つけたくなくて、暴力的に愛したい。てんでバラバラな感情をどうにか抑えていられるのは、マーヴェリックからの無垢な信頼と、彼が隠そうとしている劣情を知っているからだ。
俺たちは、そっくり同じものを抱えている。
「は? 当たり前だろ。何言ってんだよ」
心底意味がわからない、と眉を寄せて訝しむマーヴェリックが続ける。
「グースはおれの相棒で、親友で、……家族、で、」
「ヘイブラザー。そうだよ、俺の兄弟」
「……うん、きょうだい」
ぶらざあ、とマーヴェリックの口の中にもごもごと消えていく音が少しだけ悲しそうに響いた。
俺はお前のダディにだってなってやれるけど。現に、なってしまっているのかもしれないけれど。
一番信頼を寄せる存在に、暴かれたいと願うマーヴェリックは罪深かった。
本人も自覚していない渇望感。幼いころから満たされなかった肉親の愛を求める姿は愛おしくて、切なくて、マーヴェリックのこころにぽっかりと空いた空白を、この手で満たしてやりたかった。
頬を撫でる度に浮かべる恍惚の笑みに、情欲が浮かび始めたのはいつからだったろう。それすらも全て自分のものにしたくて、揶揄うように指先が唇を掠めるようになったのは――。
「グースが俺の父親だったら、困る」
「なんで? ほれほれ、お前のダディだぞー」
「もー……うりうりすんなって!」
こころの傷口を広げないように慎重になぞって、やわらかく弧を描く口元に安堵する。
「……だって、こまる」
ぎゅう、と指先で縋る姿はまるで幼子だった。
子供みたいに甘えてきて、マーヴェリック自身も気づくことのない憧憬の感傷も、きっと二人の関係に違った名前を付けることができたなら、全てが許される行為になるのだった。