風の贈り物 #1 出会いとん、とん、とん。軽快なリズムが響き渡る。
人気のないとある一家の中庭、薄桃の髪をした少年が一人、まりをついていた。
桜河こはく───代々この地の長、朱桜家の護身として仕える桜河家の、たった一人の男子である。
ただ護身と言う程聞こえの良いものではなく所謂“汚れ仕事”を請け負い裏社会で暗躍している彼らは、時折あらぬ誤解を招き一族の繁栄を恐れられる。
『桜河を根絶やしにする』という朱桜家前当主の意向から逃れるように匿われて育ったこはくは、前当主が死んだ今も尚“禁忌”として扱われており、これ以上事を大きくしないためにもと自由に外出することを許されていない。
鋼で囲まれた暗い牢での暮らしを強いられているこはくにとって、家の者が皆仕事で出払っているこの時間は、外の空気を味わえる唯一の機会なのである。
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