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    sakesake0911

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    sakesake0911

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    もう何回か晒してるやつの加筆修正……(ウスイブック用)現パロ?の?トサ?

    ウスイブック用オカダ先輩
     高校の頃仲の良かった先輩の話なんですけどね。
     自分の通っていた高校には定時制があって、定時制の生徒はまあ普通科の方とはほとんど関わんないんだけど、一人有名な人がいたんですよ。オカダ先輩って言うんだけど。
     オカダ先輩は年齢不詳で、いつも学生帽にくったくたでちょっと丈の短いの学ランとくったくたのマント、なのかな、がついたコートを羽織ってた。あとで聞いたけどインバネスって言うらしい。知ってます? あーそうそうそれ。そういうやつ。
     定時は普通科と違って私服なんだけど、オカダ先輩はずっと制服で通ってた。ちょっと小さくて閉められないのか、上着のボタンはいつも開いてたな。
     オカダ先輩はなんで有名だったかっていうとさ、ガラの悪さ。目があったら殴られるとかすれ違ったらカツアゲされるとか前科があるとかF高のヤンキーを一人で滅ぼしたとか、まあ噂に事欠かない人でさあ。近づかぬが吉がみんなの共通認識だった。
     みんなってのは生徒だけじゃなくって先生たちもたぶんそうだったんじゃないかなあ。定時の授業を兼任してる先生はともかく、普通科の先生が廊下ですれ違うとき磁石で反発してるの? ってくらい避けて歩いてたのを見たことがあるから。
     そんなオカダ先輩に、一人だけめちゃめちゃ話しかける命知らずがいたんです。
     サイダニ先生っていうんだけど。
     サイダニ先生は三年前、俺が入学する一年前にきた社会の先生で、一ヶ月で社会科準備室を私物化して物でパンパンにした猛者でさ。あんまりの散らかすもんだから他の社会科教師に怒られてるのを五回は見たことがあるな。
     このサイダニ先生もまあ、噂に事欠かない人で。
     放課後見たことない美少女と話してるところを見かけるとか、時々先生の影が何か別のモノの形をしているとか、何かと怪談めいた噂がよくある人だった。本人はそういうのとは無縁そうな、穏やかですごく気のいいお兄さんって感じだったんだけどね。
     あと男の俺から見ても顔のいい人でめちゃめちゃ女子にモテた。俺たち男子一同はこの教師は我々の脅威である、なんて慄いたものだったけど、1ヶ月もすればダニ先、ダニ先なんて言って懐いてた。普通にいい先生だったしな。まだ若くて冗談も通じるし付き合いやすかったんだと思う。授業も面白くて分かりやすかったし。文化祭とか体育祭とかもめちゃめちゃ積極的にアドバイスくれたり関わってくれたからみんな懐いてた。
     そのサイダニ先生が、なぜだか知らないけどめちゃめちゃオカダ先輩に話しかけていた。
     って言っても、定時制の生徒が来るのはだいたい夕方からだから、自分がそれに気が付いたのは一年の八月くらいだったかな。教室でダラダラしてて、帰りが遅くなった時のことだった。
     俺、特になんの部活にも入ってなかったんだけど、ホームルームを健やかに爆睡してたら面白がった友達にそのまま置き去りにされてたんだよね。みんなひどくない? さすがに人の心が無いと思った。
     いや寝ていた俺が悪いんですけど。目が覚めたときには太陽がもうオレンジがかっていて、俺は慌てて教室を飛び出した。
     そうしたら、靴箱のところでちょうど登校してきたオカダ先輩と鉢合わせしたんだ。
     ヤッベ、オカダ先輩じゃん会っちゃったよ怖ッ。いや別に知り合いとかじゃないし喋ったこともないけどとりあえず近寄らんどこ……って、気配を最大限に消しつつ外履きに履き替えていたらたまたまサイダニ先生が通りがかった。
     今帰りかい? 気をつけて帰るんだよ、とにこやかに俺に声をかけるサイダニ先生。
     オカダ先輩とお関わりにならないよう細心の注意を払っていた俺。
     誰かいたのかと言いたげにこちらを見るオカダ先輩。
     はーダニ先ほんとそういうところある。俺は内心サイダニ先生あんたホントそういうところだぞと恨みがましく思いながら、はーい先生さよーならーとかなんとか言っていたんですけど、そうしたら先生が「イゾウさん、早よいかんと予鈴なるぜよ」っていったんです。
     えっイゾウ? 誰? って思ってたらオカダ先輩がめっちゃ渋い顔でわかっとるわ、と返事をした。えっ、オカダ先輩下の名前イゾウっていうの? っていうか、えっ、今サイダニ先生オカダ先輩に話しかけた? モーセのごとく生徒も先生も避けてくオカダ先輩に? ダニ先命知らずか? ていうか、先生それどこの方言なの、初めて聞いたよ? とかなんとか思いながら俺が目を白黒させているのを尻目に、二人はそのままやいやい言い合いながら、言い合うっていうか、サイダニ先生が話しかけるのをオカダ先輩がうるさそうに、マジでうるさそうに聞き流しながら教室の方に歩いて行ったのが初めて見た二人が話している姿だった。

     それからさ、ちょいちょい二人が話してるの、っていうかサイダニ先生が話しかけてオカダ先輩がマジでうるせえって顔してるのを見かけるようになったんです。
     段々他の生徒も見かけるようになって、そういうの興味津々な女子とかがサカモト先生にどういう関係なのって先生に聞いたりもした。聞かれた先生はというと、へらーっと笑って秘密って言うだけなんだよなこれが。はーーほんっとダニ先そういうところある。いません? こういう人。
     ただ、イゾウさんもといオカダ先輩は噂されているような怖い人じゃないということ、方言は高知の訛りということは教えてくれた。
     イゾウさんああ見えてそんなに怖い人じゃないから仲良くしてあげてね、とか言われても正直それはちょっと約束しかねるなって感じだった。いやだって、めっちゃ怖かったんすよ。近所のコンビニの喫煙コーナーで煙草吸ってる姿とかヤンキー通り越してチンピラだったからね。
     まあ、普通科の生徒が定時の方と関わることはそもそもほとんどないから俺には関係ない話かなー。なんて思っていたんですけど、たびたびホームルームで健やかに爆睡し置き去りにされた結果、オカダ先輩と頻繁に遭遇し、いつの間にかつるむようになっていた。いや、ほんとひどくない? 起こしてくれてもいいよね。
     サイダニ先生が普通科で担任してるクラスに俺がいたっていうのもあったのかな。たぶん俺がホームルーム爆睡常習犯だってことサイダニ先生から聞いていたんだと思う。何度目かの下駄箱での鉢合わせで「なんじゃ、今日も寝とったんか」と、にやって目を弓形に細めて笑いながら言われて、なんで知ってんですか、とテンパりながら答えたのがオカダ先輩との初めての会話だった。

     オカダ先輩は、確かに怖い人ではなかった。
     いや、怖いときもあったけど。少なくとも俺に対しては怖い人ではなかった。なんて言えばいいのかな、気のいい親戚のおじさん、いやそれはいき過ぎかな。ちょっと歳の離れたニイちゃん、みたいな。
     サイダニ先生がいるときに恐る恐る会釈をしてそれにオカダ先輩がチラ、と見るだけだったのが、何度も何度も会ううちに先輩の方から声をかけられるようになった。
    「いま帰りかえ?」
     初めてオカダ先輩から声をかけられたときはまさか自分と思わなくて、ずいぶんとまあ間抜けな反応しちゃって。スルーしかけて、もしかしてと思って、止まって、周り見て、誰もいないの確認して、あのもしかして俺ですか? って。
     ゲラゲラ笑われたっけなあ。何回ネタにされたかわかんないな。でもそれで、恐怖心みたいなのはなくなったんだと思う。ヒィヒィいってるオカダ先輩にそんなに笑わなくていいじゃないですかあ! って泣きついたときになんだか知らない人の気がしないなあって思ったのを妙に覚えてる。まあ知らない人も何も、話したことがなかっただけで知ってはいたんですけど。
     それからは顔を見るたびに声をかけられるようになって、こっちからも声かけるようになって、連れ立ってコンビニに行ったりするようになるまであっという間だった。

     ただずっと、オカダ先輩とサイダニ先生がどういう関係なのかはわからないままだった。

     ただの先生と生徒にしてはなんか、距離の近い二人だったんですよね。ああいや、不純なんちゃらとかそういうのではなく。オカダ先輩は夜間の定時制の人で、歳も俺より多分サイダニ先生の方が近いくらいだから大人同士の気安さなのかな、とも思ったけれどそれともなんか違くて。定時の人って働いてる人も多いしみんなあんな感じなのかなーとも思ったけど、たまたま見かけた他の人とサイダニ先生とのやりとりを見る限りやっぱり違うんですよね。
     まあそんな感じで変な人達だなーと思ってたらそれが突然氷解する日が来まして。卒業式なんですけど。オカダ先輩の。
     うち、普通科も定時制も卒業式一緒にやるんですよ。人数が多くなっちゃうから在校生は生徒会とか吹奏楽部くらいしか出席義務が無いですけど、ほら、先輩とかに挨拶しに行ったりするわけですよ。部活に入ってる連中はほとんど来てたし、好きだった先輩に最後一目会いに、なんてやつもいたようないないような。あれ、したりしませんでした? そういうの。
     俺は帰宅部だったけどなんやかんやお世話になった人はいたわけで、顔は出しに行きました。そうそう、もちろんオカダ先輩もその一人で。というか、むしろメインがオカダ先輩。
     だって、先輩卒業ですねーあっ花束持ってこっかなー何色がいいです? ピンクですか? って俺が言ったら真っ赤になっていらんわ! なんて喚くもんだから、そりゃ持ってくでしょ。ピンクの花束。
     ……なんだかんだ、遊んでもらいましたから。コンビニだって奢られたりたかられたりでしたけど、結局はやっぱり先輩に奢ってもらう方が多かったし。
     いや、まず二十も半ばの成人男性が同じコウコウセイとは言え、肉まんかけて本気のじゃんけんして未成年の後輩にたかるのがまずどうなんだって話ですけど。今になってみると結構アホな先輩だったな……。
     ああでもそういうふうに同じ目線で遊んでくれて俺も嬉しかったのかな。ほら、そのくらいの年代って、年上のトモダチがいるだけでなんか、ちょっと自慢に思ったりするでしょう? それに、オカダ先輩、先輩ぶることはあっても俺を馬鹿にしたりすることは全然なかったし。
     なんだかんだね、感謝はしてたし、来月からもういないのかあって寂しい気持ちはあったんですよ。
     あっ、花束は結局ピンクにはしませんでした。俺が買うの恥ずかしくて。

     そんなわけで、式が終わった頃にえっちらおっちら行ったんですけど、いやあ人が多くて。当たり前なんですけど。なめてました正直。
     俺一年の時は別に用もなかったから来なかったんですよ卒業式。いやみんな偉いよね。ちゃんと先輩に挨拶とかしにいってさ……。俺は完全に学校が休みの日って認識でしたよ……。
     何人かの目当ての先輩は普通科の人だったから同じクラスの人たちと一緒に話してたところをすぐに見つけられた。おめでとうございます、おーきてくれたのかありがとうな、なんてやりとりをさっくりして俺はオカダ先輩を探した。でもなーかなか見つからなくて。浮いてそうだからすぐ見つかると思ったんだけどな、なんて失礼なこと思ってた。いくらサイダニ先生と俺がつるむことによってオカダ先輩が目があった瞬間オラ飛んでみろやなんていうタイプの人間じゃないって証明されたからといったってガラが悪いのは何にも変わってなかったしね。
     定時制の人たちって半分社会人みたいな人たちも多くて、普通科みたくべったりつるんでるわけでもなかったからお喋りしてるグループとかも見つからない。俺は卒業生と親と先生と遊びにきた在校生とでごった返した校庭を小遣いはたいて買った小さな花束を必死に守りながら駆けずり回ってた。
     ああそうそう。この年、桜が咲くのが早くて、校庭の桜がほとんど咲いてたんですよ。そのせいもあったのかな、桜をバックに写真を撮ろうって人が多いこと多いこと。後から聞いたんだけど、やっぱりこの年は卒業式にきた人多かったんですって。いやわかるよ、ほんとにあの時の桜は綺麗だったもんなあ。なんなら俺自身の卒業式より印象に残ってますもん。
     桜のせいで例年より割増だったらしい人混みの中でオカダ先輩を探してヒィヒィいってたら不意に、おいお前、なんて声をかけられた。最初は自分のことだって気がつかなかったんだけど、気がつかない俺に声の主は三秒で痺れを切らしたらしく、おい! って強めに肩を引かれた。気がつかなかったのは確かに悪かったけどもう少し待つ心を持って欲しいと思った。
     けっこうな勢いで肩を引かれたので足がもつれて半分転びかけながら振り返ったら見たことない美少女がいた。どれくらい美少女かっていうと転びそうになった文句が引っ込むくらい。
     うちの制服は着てたけど絶対見たことのない子で、いやほんと、カシオミニかけてもいい。えっえってコミュ障丸出しでドギマギしてたらお前、写真撮ってくれないか? ってカメラを押し付けられたんです。思わず受け取っちゃって。
     そしたらその子は俺の腕を掴んで、たーっと走りだした。ごった返す人混みの中を。
     待って! っていう間も無く女の子は俺の腕を引っ張ってった。あの時はついていくので必死でなんとも思わなかったけど、不思議と誰ともぶつかることもなく駆け抜けた。いや駆け抜けた、って表現していいのはその子だけかな。俺はもう、ついていくのに必死で! 桜が咲いてるって言ってもまだ肌寒い三月に汗びっしょりですよ。女の子は涼しい顔で息ひとつ乱れてないってのに。さすがにプライドが傷ついたのでその後しばらく走り込みなんかしてたなあ……。いつの間にかやらなくなっちゃったけど。あー最近体力落ちたしまたやろうかな……。
     女の子が俺を引きずって連れてきたのは校門だった。ちょうど普通科の卒業生がクラス単位で集合写真を撮るってアナウンスがかかってそっちに人が流れたせいか、俺がもまれてたのが嘘みたいに人がまばらだった。
     おーい連れてきたぞ、と女の子が校門そばに立ってる誰かに手を振ると、二人が振り向いた。それがサイダニ先生とオカダ先輩だったんですけど。
     もうニッコニコのサカモト先生と賞状入れを鈍器か何かなの? って持ち方した心なしか表情が晴れやかとも言えなくもなくもない感じのオカダ先輩がいた。
     女の子はいといえば、こいつが写真撮るぞ、とぽいっと俺を犬猫みたいに放り出して二人にじゃれついた。引きずってきておいてひどくない? 

    そこでさっきの女の子がこっちだぞー!って呼ぶもんだから自分はマジで行きたくねーっていうのを晴れの日だからと押し込めて行ったんですけど。


     なんか三人の会話がね、明らかに昔馴染みのそれなんですよ。テンポとか雰囲気とか、砕けた言葉尻とか。いやサイダニ先生とオカダ先輩は前から謎の親しさあったけど。女の子までそうなのだからなんだか不思議な感じだった。
     最後だし、教えてくれるかなー? って思ってサイダニ先生にいい加減どういう繋がりなんですか二人、って聞いたら先生はちらっとオカダ先輩の方を見て最後だしいいよね? って聞いた。
     オカダ先輩はまーもうええわってちょっと投げやりにこたえて、それでやっと教えてくれた。
     二人(と謎の美少女)は幼馴染なんだそうで、先生と先輩は二歳しか違わないらしい。
    サイダニ先生はここの出身で、オカダ先輩も元々は普通科に通っていたらしい。(学ランはその時のだそうだ。)普通科は中退しちゃったらしいんだけど、でもこのご時世、高卒資格は欲しいと一念発起して定時に再入学したんだって。で、そのタイミングにサイダニ先生は赴任してきたらしい。
     なんで教えてくれなかったんですかあ、って恨みがましげにいう俺にオカダ先輩は心底面倒臭そうに旧知やとしれたら面倒じゃろ、とサイダニ先生を横目で見ながらいった。あー確かに。
     サイダニ先生はというと、イゾウさん最後まで僕のこと先生って呼んでくれなかったなーと拗ねていた。といっても、オカダ先輩の卒業が嬉しいのが抑えきれないとばかりの丸わかりのニコニコ顔だったけど。ふん、と鼻を鳴らしてるオカダ先輩も口元がむずむずとほころんでいた。

     渡されたカメラはポラロイドカメラだった。チェキとかじゃなくてあんまり見たことのない古い感じのやつだったから、たぶんサイダニ先生のだったんだと思う。
     はい撮りますよーと声をかける俺にオカダ先輩はちぃ止まってくれと待ったをかけた。彼は賞状入れの蓋をポンと外して卒業証書を取り出す。丁寧に巻いてクセをとって、広げて前に掲げてから待たせた、ええぞと俺を見やった。
     なんていうか、少し意外だった。
     記念写真を撮るのに卒業証書を広げて持つこと自体は全然不思議じゃないし、むしろ定番だと思うけど。オカダ先輩が自分からそれをするのはなんだか意外だった。それはサイダニ先生も同じだったみたいで、オカダ先輩の横で目を丸くしていた。女の子は興味なさそうに早くしろとオカダ先輩を急かしてうるさがられていた。
     まあ何はともあれ、準備が整ったところで改めて、はい取りますよーいち、にぃ、さん! と撮った写真はすぐに出てきて徐々に像を浮かばせた。
     卒業生本人よりも嬉しそうに笑ったサイダニ先生。押し潰さんとばかりにオカダ先輩に体重をかけてのしかかりながら真顔でピースをキメる美少女。のしかかられて少しよろめきながらも誇らしそうに賞状を掲げるオカダ先輩。
     ああいい写真だね。お前やるな。まあええんやないか。
     ありがとう、ありがとう、おおきに。お礼を言われてカメラを返して、ついでに俺の花束も渡して――酒じゃないんか、といいつつ目元がにやけてたからたぶん喜んではいたと思う――、それきり俺は彼らと会っていない。
     というのも、オカダ先輩は卒業してすぐ別の土地に行ったらしく、サイダニ先生も田舎に帰ってそっちで教鞭をとることになったからだ。女の子の方はよくわからないけど、あの日以来、一度も見たことはない。サイダニ先生は人気だったから離任式は大変だった。主に女子が。
     我々男子諸君はチベスナ顔でもみくちゃにされる先生を眺めていたけど、なんやかんや最後はみんなでもみくちゃにした。そうやってもみくちゃにされて惜しまれてサイダニ先生が離任していった。

     年度が変わって、学年が上がって、すぐの頃かな。空っぽになった社会科準備室で写真を一枚、見つけた。
     サイダニ先生がいたとき社会科準備室はほとんど彼の私物と化していて、先生がいなくなった今準備室はポツポツと不用品が置かれているだけの物置扱いだった。他の先生方は整理整頓が上手らしいのでぽっかりと空いた準備室がものでいっぱいになるのはしばらく先のことになりそうだった。
     その写真は俺がその準備室の新たな住人たる馬鹿デカくて重い図録を先生に言いつかって放り込みにきたときに見つけた。
     あの時の写真だった。先生が忘れて行ったのか、主を失ったデスクの上に一枚ペロンと落ちていた。ニコニコのサイダニ先生、真顔ピースの謎美少女、卒業証書を胸の前で掲げたオカダ先輩。ふふ、と思わず笑ってしまった。だって、なんだかあんまり微笑ましいから。
     裏を返すと黒板でよく見たサイダニ先生の字で日付と卒業式、以蔵さんとお竜さんと。と書いてあった。お竜さんはあの女の子のことだろうか。
     しかし、忘れていっちゃったのかな。せっかく撮ったのに。そうだ忘れてったんなら送ってあげようと、俺は先生の住所を聞きに職員室に行った。だって、せっかく撮ったのに、あんなに三人とも嬉しそうにしてたのに失くしちゃうのは、ね。
    そう思って聞きに行ったんですけど、なんか、それが、おかしくて。 
     サイダニなんて先生、いなかったっていうんです。誰に聞いても。
     そんなはずないし、先生は四年はここにいたはずだし、自分も一年から二年までは先生の授業を受けたはずなのに、無いっていうんですよ。去年度の名簿にサイダニなんて名前。
     それどころか友達に聞いても社会の先生は〇〇先生じゃんとか言われちゃって、確かに自分はサイダニ先生に教わってたって、先生とオカダ先輩のやりとりハラハラしながら見てた記憶があるのに、誰も、なんならオカダ先輩のことを知ってる人もいなくなってて……。
     誰もいないんですよ。サイダニ先生とオカダ先輩のこと知ってる人。もちろん、あの女の子のこと見たことある人も。
     でもね、たしかに自分の記憶はあるし、写真を撮ったことも覚えてて。写真もほら、ここにあるんですよ。××××年3月1日卒業式以蔵さんとお竜さんと、って書いた写真。

     ずっと探してるんです。この人たちのこと。自分の記憶がおかしくないっていうのを確認したいのもそうなんですけど、なんか、この写真は絶対渡してあげなきゃって気がしてて……。あはは、もう卒業してずいぶん経つし、見つからない可能性の方が高いってわかってるんですけどね。でもほら、人生ってなにがあるか分からないですから。
     だから、どこかでこの写真の人たちを見たら教えてあげてください。あの時写真を撮った俺が持ってるって。
     オカダ先輩に教えた携帯の番号、ずっと変わってないですから。

    じゃあもし見かけたらお願いします。
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