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    DINAmadlover

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    誓いを
    (諸々とかんけいのない、白髪のだれかのおはなし)

    「うぐっうぐっ……」


    部屋のなかで踞って泣いている一人の男。
    食べ物や飲み物が床に転がっており、黴が生えていたり浮いていたりと、酷い有り様だ。
    食べ物に飢えた小動物や虫たちにとっては格好の餌場で、蠢く気配がいくつもする。
    かさり、かさり。
    脱ぎ捨てられた衣服の下をくぐりぬけて、ゴキブリが走っていく。
    一直線に、男の方へと。


    「うあっ」


    驚き後ずさるが、向かってくるゴキブリの足よりも早く横から迫ってくるものがいた。
    黒褐色の体、長い足、体に見合わぬ素早さであっというまにゴキブリを捉え、ひっくり返し、マウントをとる。
    まるで暗殺者のような素早い動きに、男は思わず見とれる。
    動きようのなくなったゴキブリをアシダカグモはじわじわと食べていく。


    「……た、助けてくれたのか」


    小さな声で呟いた。
    誰からも嫌われていると思い、ひきこもって誰とも喋ることができなかった男にとって、それは救世主のように見えた。
    だって彼女は喋れないから、だって彼女は嫌いにも思えないから、安心だ。
    彼女になら僕は絶対に傷つけられることはないんだ。
    食べ終えて口回りを掃除しているアシダカグモの背を、指先から作り出した風でそっと撫でる。


    「か、かわいいね、な、名前は?」


    アシダカグモはくしくしと体を掃除しつづけている。


    「ま、まだないの? じゃ、じゃあ僕がつけてあげるよ……じ、ジウ。ジウでどうかな……いい? あ、ありがとう、うふ、うふふ……」


    指を伸ばそうとするとアシダカグモはびっくりしてすぐに走り出す。


    「ま、待って、待って……やだ、い、いやだ お、お前も僕を見捨てるのか 馬鹿に、するのか」


    目を見開いて叫び、指先から風を作り出す。
    風はアシダカグモを巻き込み、竜巻のようにうねり、捕らえる。
    風に抗いぱたぱた動くアシダカグモを両手で包み込み、実験用に飼っておいた虫かごにいれる。


    「ご、ごめんね、こ、怖かっただけなんだよね? わ、わかってる、で、でも僕は不安で……だ、だから君と……」


    虫かごのなかのアシダカグモをほのかに赤い顔で見つめて、もじもじと内股ぎみになり両の指を合わせる。
    「こ、恋人にな、なりたい……うふ、ふふふ、そ、そのために、ち、誓いを交わさせて…… 僕の誓い、受けてくれるよね……?」


    アシダカグモは何も返さない。
    ただ、篭の外を眺めているようだ。


    「君と僕を縛るは、誓(のろ)いの黒い糸。愛ある限り、糸は永遠に切れることはなく、僕の指先と君の指先に。さぁ、誓(のろ)いを立てよ(むすぼ)うーー一つ、君は僕を永遠に愛し続ける。二つ、君は僕の手のなかで生き返る。三つ、君は僕を怖がらない。四つ、君は虫のまま一生を終える。誓(のろ)おう永遠に。この糸は切れることはなく、僕らだけの秘密。僕らだけの呪いを今ここに。愛してる……」


    魔力の糸にからめとられ、アシダカグモの体が黒く変わっていく。
    だが、抵抗することはない。
    何故ならもう誓(のろ)いは成ったのだから。


    「僕だけのジウ」
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