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    まき🛌

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    まき🛌

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    ロナドラ / 期間限定イチゴ大福味

    たぶん付き合ってる やきもちドちゃ

    「ただいまー」
     ロナルド君が買い物袋をどさりと机の上に置いたので、私はゲームを中断して中身の確認に向かった。
    「おかえり。卵買えた?」
    「買えた」
     牛乳だけ冷蔵庫に入れて部屋着に着替えるロナルド君を尻目に中身を検める。慣れたとはいえ全く料理をしない人間の買い物にあまり信頼は置いておらず、最近はまあ間違えてもカバーしてやろうくらいの心持ちである。寛大さに感謝してほしい。小松菜とほうれんそうを間違えがちなのはセロリが近くにあって緊張するかららしい。退治人がそんなんで大丈夫か?
     幸い今回はおおむね言われた通りのおつかいができていた。しかし、
    「うわ」
     生鮮食品にまぎれていたそのパッケージを確認して、思わず声が出た。
     私の様子を見たロナルド君が手元を覗き込み、ああそれ、と答えた。
    「新味が気になりすぎて買った」
    「ふうん……」
     よく見るメーカーのポテトチップスである。しかし今回ロナルド君が買ってきたそれには商品名のロゴの下にでかでかとイチゴ大福味と書かれていた。
     イチゴ大福て。
     美味しいのか不味いのか予想できない微妙なラインである。しかしだからこそこうして衝動的に買ってしまう人間も多いのだろう。
     ただ、他でもないこの男がこれを買って来たことに、言いようのないモヤモヤした感情が広がっていくのを感じた。

     そもそもロナルド君がポテトチップスを買って来たのは久しぶりのことである。
     私が事務所に転がり込んだ当初は、家主はスナックやらなにやら買い放題でそれは偏った食生活を送っていた。しかし私が料理を担うようになって改善されていき、おやつも私の作ったもので満足するようになった。むしろ自分からおやつをせびってくるまでになった。私もそんなロナルド君を見ていて悪い気はせず、一種の達成感を覚えていた。このまま私の料理でしか満足できない身体にしてやるのも悪くないという気分だった。
     その矢先にイチゴ大福味である。
     お前あんだけ私のおやつせびってただろうが。こんな得体の知れない駄菓子で満足できると思ってんのか? あ? 餌付けに成功したゴリラが別の飼育員の作った餌に飛びついているのを目撃したらこんな気分だろうか。いや別にポテチくらい買えばいいし、勝手に食べればいいのだが、今日だって昨日作ったクッキーがまだ残っている。
     妙なところで熱くなっている自分がいることに気付きながらも、私はポテチの袋をキッチン横のスペースにぞんざいに放り込んだ。


    「なにそれ? 芋?」
    「ポテチ」
    「ふーん……ポテチ!? ポテチって作れんの!?」
    「私の手にかかればポテチくらいチョチョイのチョイだわ」
     結局、ロナルド君が件のポテチに手をつけたのは数日後のことだった。あまりにも微妙な顔をしているのが面白くて笑ったら「うるせーなテメーも食ってみればいいだろ」と言われて袋の口を向けられたが丁寧にお断りした。
     不味くないけど美味くもない顔だなと言ったらどういう顔だよと言われたが私はもうだいたい若造の表情で好き嫌いが分かるようになってしまった。もちろんこの男が分かりやすすぎるのもあるが、まあそれはいい。
     ポテチを作るの自体は至極簡単である。ただ、若造好みかつ他では絶対に食べられない味を作るためにさまざまな香辛料やハーブを吟味した。ジョンにも手伝ってもらって変わり種っぽい味からシンプルなものまで数種類作るつもりである。ダイニングからキッチンを覗く5歳児は初めて工場見学に来た子どものように目を輝かせてポテチが出来上がるのを見ていた。
     

    「ノンオイルノンフライでカロリーオフ。他じゃ絶対に食べられない味だ。私を崇め食べなさ」
    「あ、うまい」
     目の前に差し出したポテトチップスは瞬間、若造の口に吸い込まれていった。なんたる食い意地。ヒナイチ君を笑えんぞ。
    「なにこれ? 何味かわかんねえけどうめえな。ほらジョン」
    「全部同じ味じゃないぞ。こっちからこっちは甘いやつだ」
    「甘いやつだ!!」
     アホみたいにはしゃいでいる。ポテチを自家製したから何だという話だが、若造にとっては画期的なのだろう。次々にポテチを吸い込んでいくロナルド君を眺めていると、数日前から感じていたモヤモヤした気持ちが晴れていくのを感じた。
     やはり若造が一番美味しいと思うものは私にしか作れない。
    「もう得体の知れないポテチなんか買ってくるんじゃないよ」
    「え?」
     ふとついて出た言葉に、ロナルド君が妙な顔になった。
    「それってこの前の……あの……イチゴのやつのこと?」
    「ん? うん」
     ロナルド君はポテチを食べる手を止めて、私の顔をまじまじと見た。
    「お前俺があれ買ってきたから作ったの?」
    「あ?」
    「俺のために?」
     ……………。
     視線にいたたまれなくなって目を逸らした。ついでに頬が熱くなるのを感じた。
     墓穴を掘った。
     今の私は、ロナルド君の買ってきたポテチに密かに対抗意識を燃やしてわざわざマウントを取りにいった男である。客観的に見たらものすごくアレなことをしているとは薄々気付いていたが、もう止められなかった。こう見透かされると非常に気まずい。正直とても恥ずかしい。
    「おう、いや、うん」
     やめろ! いたたまれない!
     今からでも開き直ってやろうかと背筋を伸ばして咳払いをしたが、その前にロナルド君が意を決したように口を開いた。
    「あー……いや、その、お前の作ったもんが一番、うめえよ」
     ロナルド君はそう言うと席を立とうとしたので肩を掴んで阻止したらひっと情けない声が聞こえた。
     
    「お互いにめちゃくちゃ恥ずかしいだろこれ!!!!」
    「な、なん、事実を言っただけだろ!!」
    「そうだな!!」
     やきもち焼いて手作りするとかそんなかわいいことすんじゃねえよ、と言われて私は今度こそ砂になった。
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