残香デパートのジュエリーショップは、休日という事もありほどよい人の賑わいを見せていた。気品漂うガラスケースの内には、煌びやかで尖った輝きを放つ宝石が整然と並んでいる。そのひとつ──シルバーのネックレスの前で、足を止める一人の女性がいた。
白いワンピースに、大振りなリボンを頭につけている。高価なアクセサリーを眺めていても、場違いだとは誰も思わないような──可憐な見た目をしていた。小柄な体型もまた、彼女の魅力の一部のようだ。
「もしかして、マリちゃん?」
その声で、マリは現実に引き戻された。ようやく視線を外し、誰かが自分に声をかけたのだと認識した。すぐに振り向きたい衝動にかられたが、思いとどまり、すぐに勘違いだと自分を落ち着かせた。彼女は半歩だけ後ろへ下がり、スカートのすそをふわりと揺らしながら、ゆっくりと体の向きを変えた。
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