けほけほと喉から押し出される空気の塊がぼんやりと熱を持っているのを自覚して、アルハイゼンは溜息をついた。普段体調管理を怠らないからこそ慣れない体の不調が煩わしく、高熱はアルハイゼンの冷静で整然とした思考を攫って水キノコンのようにふわふわと漂わせる。風邪をひくのはいつぶりだろうか。教令院に入ってから体調を崩した覚えは無い。最後に風邪をひいたのは……そうだ、まだ祖母が生きていた時分で、幼かったアルハイゼンが眠るまで、とん、とん、と一定のリズムで祖母は背を撫でてくれた。少しカサついた温かい手が額に浮いた汗を拭って──……
ベッドから見上げる祖母の優しい顔を目で追ったところで、それはぼんやりと揺れる金髪に入れ替わった。ゆっくりと瞬きを繰り返すと、熱で潤んだ視界にスピネルの大きな瞳が像を結ぶ。どうやら一瞬のうちに記憶と夢の世界に入り込んでいたようだった。
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