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    ななしのひと

    情緒が落ち着かないタイプ
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    ななしのひと

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    お題頂いて書いた討伐後の煉骨です。煉→蛮のような内容です。

    囚われの亡霊ジリジリジリジリジリジリ。
    蝉が木に留まって鳴いている。何匹いるだろうか。地面にはあちこちに脱け殻が落ちている。今年の夏は、蝉が多い。
    ジリジリジリジリジリジリ。
    飽きもせず、やかましく鳴き続ける。大群の大合唱に、戦場での喚声を思い出す。五月蝿く吠える弱い奴らなど、自分達の敵ではなかった。七人隊は、強い者の集まりだったのだ。
    「こっちの道行こうぜ!」
    「えっ、やめなよ!そっちは……」
    子どもの声が聞こえ、そちらを見た。向けた視線に気づくことなく、子ども達は話し続ける。
    「殺された傭兵の塚があるんだろ?もう死んでるんだから平気だって」
    「でもまだ亡霊がさまよってるって噂があるし……」
    「そんなのただの噂じゃねえか。ったく、怖がりなんだからよ。しょうがねーなー」
    そう言うと二人の子は別な道を進んでいった。塚の前に佇む煉骨の姿は彼らに見えなかったようだ。
    「………亡霊か」
    静かに口にする。その体の膝から下は自分の目にも映らぬほど輪郭が曖昧だ。透ける体はこの世とあの世の境でさまよう証拠。人ならぬ者となって誰に気づかれることもなく、七人が眠る場所から離れられずにいる。
    「死んだ先に続きがあるとはな」
    そう呟いて塚を眺める。榊立てに挿した葉は夏の暑さで萎れていた。明日にはまた誰か村人が訪れて塚の手入れをしに来るだろう。榊も持ってきて取り替えるに違いない。不条理に殺しておきながら恐れを抱き、バラバラになった七人の体を全て集め、一所に埋葬する。鎮まるようにと、塚まで建てて。
    「ふざけるんじゃねえ」
    強い憤りをこめて口にする。墓の手入れなど、そんなもの願い下げだ。ここにあるのは死んだ無念と恨みだけ。殺しておきながら手厚くされて、嬉しいはずもない。ただ怒りが増すのみだ。
    塚の下、七人全員の死体が埋まっていることに、煉骨は未だ実感が沸いていなかった。大名どもに謀られて追われる身となった後、自分の退場は早かった。この目で死に際を目にしたのは凶骨だけだ。他の五人がどのように討たれたのかは知らない。塚を通りすぎる村人達の話を聞くに、全員首を討たれたようではある。
    「………大兄貴」
    あの首領が本当に死んだのか、煉骨はまだ疑っている。蛮竜を振るえば敵を薙ぎ払い、取っ組み合いになれば拳で相手を殴り殺し、手を捻れば容易く人の首を引きちぎるあの男が負けるなど、到底信じられるはずはなかった。
    ジリジリジリジリジリジリ。
    耳障りな音が響く。夏の盛りであろうが、日差しの暑さも感じはしない。視覚と聴覚は残っているが、他の感覚は曖昧だ。塚に手を伸ばしても、無論触れることは出来はしない。すう、と体が通り抜けるのみで、住む世界の隔たりを実感する。
    蛮骨はどうやって殺されたのだろう。塚の側で、通りすがる村人達の噂話に耳をそばだててみても、死に様を思い描けるような話は聞こえてこなかった。七人全員の骸がここに葬られたことだけはわかる。自分の死体も、ここにあるのか。蛮骨の死体と折り重なるようにして。
    「何故……何故死んだ………」
    独り言を呟いても、誰にも聞こえない。いつからここにさ迷っているか定かではないが、他の七人隊の霊を見たことはない。悔いなく死んだのだろうか。そんなはずはない。皆、悔しさと虚しさを抱えて敗走していた。
    「何故死んだんだ……大兄貴……」
    自分が死んだことに納得は出来ないものの、疑問は無い。人間だから殺されれば死ぬのは当然のことだ。しかし蛮骨は違うと思っていた。あの男がそこらの大名や名も無き雑兵に殺されるわけはないと、そう信じていたのだ。
    ぎり、と歯を食い縛る。蛮骨の死を考えると、わけのわからない感情が溢れてくる。怒りも憎悪も失望も混ざって、掴みかかって問い質したい気持ちになるのだ。蛮骨という男に向かって。
    何故そのような気持ちになるのかと聞かれれば、それに対する答えは持っていない。感情が先行していて、自分でもその理由は理解出来ていなかった。
    「そこに……そこにいるんだろう、大兄貴……」
    塚を見つめて一人、呟き続ける。誰も聞くものはいないが、その声はすがるようにも聞こえた。
    「てめえが一番強いから……だからおれたちをまとめてたんじゃねえか……」
    だからこそ自分も従った。不服なことも腹立たしいこともあったが、強さが全てという七人隊の決まりのもと、年若い蛮骨に膝を折ったのだ。
    「なのに……何故死んだ……何故……負けたんだ………」
    独り言を呟き続ける。いない者に向けて、届かない想いを問い続ける。
    「答えてくれ……大兄貴……」
    ざわりと風が吹く。あれだけいた蝉の声は聞こえない。陽が陰り、暗い影が塚に落ちる。生温い空気が満ちていくことに、ただよう怨霊は気づかない。
    「答えろ………答えろ蛮骨……!!」
    激情と共に恨み節を亡者の眠る塚に向かって吐く。激しい風が吹き荒れた。周囲が不気味に静まり返る。問いかけても何も返ってこない。もう何度も何度も繰り返したから知っている。それでも、訊ねずにはいられなかった。
    「蛮骨………」
    静かに名を呼ぶ。激情をぶつけ終え、胸に去来する虚しさ。雲が去り、空が晴れて、夏の日差しが再び顔を見せた。蝉の声が戻り、暑さも日常のそれへと変わる。
    「………答えてくれ………」
    絶望の中、七人の眠る塚の前で頭を垂れる。いつまでこうしていればいいのだろう。死にたくないという想いがここに留まらせているのだろうか。盆が過ぎればこの身もあの世へと送られるだろうか。一人を寂しいとは思わないが、取り残された虚無感は日を経る毎に増していく。人でなしの自分が成仏出来るとは思わないが、せめてここに縛られ続ける身からは逃れたい。そう思う。
    塚を見つめる煉骨。怨霊となってここに縛られているのは、生への執念に囚われているからではない。
    浮かばれないその理由。強い感情は、一人の人間に対して向けられているもの。
    男はもうどこにいない。死んでもなお、あの強さに縛られたまま。どこにも行くことが出来ない。
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