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    hito

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    hito

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    クリスマス蛮蛇🎄クリスマス睡煉書いたら自然と一緒に書いてた 仕事の合間にちょいちょい……ポエム感が強いのでこそこそ書き直す気がする

    大きな交差点を行き交う数えきれないほどの人間。近くの広場に設置されたベンチに座りながらその光景を眺めていると、同じ年頃の女が声をかけてきた。
    「ねぇいま暇してるの?」
    知らない女だ。こういう手合いから声をかけられることには慣れている。軽い笑みを浮かべながら蛮骨は口を開いた。
    「暇じゃねぇよ。連れを待ってるとこだ」
    「連れって男?女?」
    「男」
    「えっ、じゃああたしも友だち呼ぶからさあ。ちょっとカラオケとか一緒に……」
    「なんだてめぇ?」
    にこにこと笑っていた少女の表情が一変する。ドスの効いた声に振り向くと、紅を差した男がそこに立っていた。
    「蛮骨の兄貴に何か用かよ」
    据わった目、威圧感に満ちた空気。ただの優男ではないことを気配で感じ、「よ、用なんてないし!!」と言って少女はどこかへと去っていった。
    「やりすぎじゃねえか?」
    「そんなことねぇって。蛮骨の兄貴こそ、あんな女さっさと追い払っちまえばいいのに」
    むすっとした顔を浮かべる男、蛇骨の様子を見て蛮骨はふっと楽しげに笑う。
    「加減が難しいんだよ。殺さねぇ程度のな。全くめんどくさい世の中だぜ」
    そう言ってベンチから立ち上がると、蛮骨は蛇骨の隣に並び、そのまま交差点へと向かって歩きだした。ちょうど信号が青に変わる。止まっていた人々が一斉に足を踏み出した。
    「それで? このあとどうするんだよ、蛮骨の兄貴」
    「そうだなあ。どうするか」
    「まだ明るいし、しばらくは点かねぇんだろ?」
    「ああ。あと30分か、1時間くらいはあるんじゃねえか」
    若者の溢れる繁華街に、蛮骨と蛇骨はイルミネーションを見に来ていた。今の時刻は16時。点灯は早くても17時頃からだろう。まだ夜の顔を見せていない街の細道。大勢の見物客でごった返す通りを、二人は難なく人を避けつつ歩いていく。
    「なんか食うか?」
    「うーん、おれあんまし腹減ってねえんだよなあ。飲み物だけでもいい?」
    「いいぜ、好きにしろよ。ハンバーガー食いてえから、あそこでいいだろ」
    「あっ、んじゃあおれも、ポテトくらいは頼もっかな」
    赤い看板を目印に二人は店に入る。注文してカウンターの前で待てば、ものの数分で飲み物とハンバーガー、それにポテトが用意された。
    「そういや煉骨の兄貴から連絡来てたぜ。見た?」
    「いいや、見てねぇ」
    窓辺のボックス席に座り、ガラスの向こうにある外を眺める。雑居ビルの3階に位置したこの客席からは、往来を行く人々を眼下に眺めることができた。
    「なんか明日の夜飲むから、暇なら来ないかって」
    「ふうん。まあいいんじゃねえか、たまには」
    「蛮骨の兄貴、行く?」
    「お前が行くなら行く」
    「えーっ、なんだよそれ。おれも蛮骨の兄貴の返事聞いてから考えようと思ったのに!」
    「なんだそれ。まあ、じゃあ行くって返事しておけよ」
    そう言ってコーラを飲む蛮骨。蛇骨も隣でブレンド茶をちゅうっと啜った。
    店内にはクリスマスソングが流れている。少し離れた席に座る女子高生たちも、プレゼントの交換会の話題で盛り上がっていた。
    「煉骨の兄貴、泊まらせてくれるかなあ」
    「また宅飲みだろ。床なら貸してくれるんじゃねえか」
    「床かあ。せめてソファで寝かせてくれねぇかな」
    「お前、前に盛大に汚したことあっただろ。無理だと思うぜ」
    「あれは蛮骨の兄貴が飲ませ過ぎるからいけねぇんだろ~」
    「そうだったか?ま、ソファにはおれが寝るから諦めろよ」
    「どうせ睡骨がベッド貸してくれるんじゃねえのか、蛮骨の兄貴には」
    「かもしれねえな」
    「あの野郎、おれには絶対貸さねぇくせによ。蛮骨の兄貴と煉骨の兄貴には優しいんだよなあ」
    不満そうに口を尖らせながら、外を眺める蛇骨。空の色は深くなり、陽はもう見えなくなってビルの隙間に覗いたわずかな橙を残すのみだった。
    一番星の光が遠くに見える。星の名など二人とも知らない。輝いているから地上からでも見えて、そこに在ることだけ知っている。
    暗くなり始めた空を見つめたまま、蛇骨が口を開いた。
    「なあ、蛮骨の兄貴」
    「ん?」
    その時だった。街中に、一斉にイルミネーションが灯った。
    「おっ」
    「あっ」
    青、緑、白、赤。キラキラ眩しい、色とりどりの輝き。人工の光が街並みを美しく飾り立てる。二人が予想していた時間よりも、早い点灯だったようだ。外の歓声や興奮が、店内にまで聞こえてくる。
    蛮骨と蛇骨はその光景を静かに見下ろしている。蛮骨が小さく呟いた。
    「星の光なんて、もう見えねえな」
    道行く人々の目はイルミネーションに釘付けだ。地上から見れば、電飾の光の強さに星の光など霞んでしまってることだろう。誰もそこに星が在ることに気づきはしない。確かに輝いているのに、それはもう人々の目には映っていない。
    「どいつもこいつも……違うもんに夢中だ。誰も見ようともしねえ。あることにすら気づいてねえ」
    蛮骨の視線は街中の電飾の輝きではなく、天上に光っているはずの星を追っていた。多数の人工の光にかき消された、強い星の光。昔から人々の目を惹き付けてきた存在に、今は誰も見向きもしない。輝くものは、時代と共に移り変わっていた。
    「もう、必要なくなっちまったんだろうな」
    かつて生きた時は、強さこそが全てだった。なのに、今この世界では強さよりも多数の調和が重んじられる。見上げられる存在となるよりも、隣にある存在と協調せよと謳われる。
    まるで違ってしまった世界。ここでどのように生きろというのだろう。心はあの頃と、何も変わってなどいないというのに。
    「見えなくたってあるだろ、そこに」
    聞こえた言葉に、蛮骨が目を見開く。ふと隣を見れば、蛇骨がそこに微笑っていた。
    「昔から今まで、ずーっと、光ったままじゃねえか」
    当たり前のようにそう告げられる。まっすぐな言葉が胸にすっと入ってきて、目の奥がじん、と熱くなった。
    見つめてくる視線は、今も昔も変わらないもの。強い星を一番近くで見ていたから、終えても見失わずにこうしてまた会うことが出来たのだ。
    この世で星が輝かなくても、その目は光の在処を知っている。焼き付いた眩しさを忘れることはなく、命を越えた魂の中で、永遠に光り続けている。
    胸に込み上げる感情。それをぐっとこらえて、蛮骨が笑った。
    「そうだな」
    その表情を見て、蛇骨もにこりと満足そうに笑う。二人で旅をしていた時から、何も変わらない笑顔で。
    もう一度、一緒に空を見上げる。夜が訪れ、真っ暗になった空。そこに浮かぶ、消えた光達を想った。
    ふと、蛮骨が口を開いた。
    「なあ、そういやさっき何か言いかけただろ」
    「ん? ああ、なんだったけ……」
    「なんだよ、もう忘れちまったのか」
    「へへ。たぶん大したことじゃねえからいいや」
    「そっか。じゃあ思い出したら言えよ」
    「ああ。思い出したらな」
    二人でストローに口をつける。ありふれた若者の一員として、街の光景に溶け込む。かつて薙ぎ払った凡庸な人間たちと、隣り合わせで生きていく。数多の石の中に埋もれる。強さという光をくすませて。
    『なあ、蛮骨の兄貴』
    忘れられた言葉。もう告げられることのない消えた言葉。
    『昔も今も、星ってきれいだよな』
    思い出すこともない、大したことのない事実。
    輝きを失っても、星は確かにそこにある。
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