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    hito

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    hito

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    モブから見た煉銀蛇シリアス。人が死ぬ。
    睡骨探すのに「こんなとこにいやがった」なので他の村も探したのかな妄想。

    心地のいい風が、花の匂いを運んでくる。この香りは菜の花だ。春の空気に思わず少女は顔を綻ばせた。
    畑の種蒔きを終え、畦道に咲いていた蒲公英で作った花輪を完成させると、それを手にして少女は村へと走って戻る。今日は「彼」が山の仕事を終えて村に帰ってくるはずだ。まだ着いてはいないだろうが、一刻も早く意中の男に会いたくて、おかえりなさいと告げたくて少女は家へと戻った。
    「姉ちゃん。なんだよ、それ」
    家の中で髪を結い直していると、弟に声をかけられた。収穫した野菜を紐でまとめる手が止まっている。弟の視線は花輪に注がれていた。
    「あんたには関係ないの」
    「なんだよ、男にやるのか」
    「うるさいわね、いいから仕事してな」
    にやにやした弟に冷たい態度をとりながら、少女は黒髪をまとめあげる。
    「私が出かけてる間に母ちゃんが北の畑から戻ってきたら、すぐに帰るって言っておいて」
    弟の返事を待たずに少女は外へと出た。手にした花輪を見つめ、帰ってくる男のことを想って小さく微笑んだ、その時。
    轟音が村中に響いた。
    「!?」
    聞いたことのない音に顔を上げる。村の入口に黒い煙が見えた次の瞬間、再び轟音が連続して鳴り響き、衝撃と共に地面が揺れた。
    「きゃあっ!!?」
    突風に体が吹き飛ばされ、地面に転がる。全身を強く打って痛みが走った。
    「う………っ」
    轟音はやまない。それどころか近づいてさえきている。一体なにが、と思った次の瞬間、鼓膜が破れそうなほど大きな音が響き渡った。
    「!!」
    耳を塞ぎ目をつむる。少しの時間を置いて、恐る恐る目を開けた時。潰れた自分の家が視界に入った。
    「え……」
    呆気にとられた顔で家が立っていた場所を見つめる。崩れた壁と柱の間に折れ曲がった腕が見えた。弟の着ていたものと同じ色の布きれが千切れて、風に乗って飛んでいく。
    さあっ、と顔が青ざめる。駆け寄ろうとしたその時、ガシャンガシャンという聞き慣れない音が背後から近づいてきた。
    「な、なに………?」
    恐怖に身を竦める。音と共に近づいてきたものは、鉄の乗り物、いやーー
    「人……間………?」
    ガチャン、と音を立てて鉄の乗り物が止まる。乗り物は奇妙な形をしていた。鋼鉄の土台の上に、腕を失くした人間の上半身のようなものがくっついている。そんな風にして人間が生きているはずはない。だが確かにくっついている。
    「ここにはいないようだな」
    「ぎし」
    乗り物に設置された砲台の背後から頭巾姿の男が姿を現した。それ以上に少女が驚いたのは人間の上半身のような部分が喋ったことだ。不気味な光景に奥歯がカチカチと鳴る。あれは人なのか。下半身も腕もついていないのに平然と喋っている。ぞっとした。あんな状態の生き物を、果たして人間と呼べるのだろうか。
    「ったく、あの野郎手間かけさせやがってよ」
    別な男の声が聞こえてくる。まだ砲台の影に誰かいるらしい。男たちは少女のことに気づいているのかいないのか、話を続ける。
    「仕方がないさ。こうやっていそうな場所をしらみ潰しに探していくしかねえんだ」
    「ぎっし、ぎしし」
    「そりゃあそうだけどさ、煉骨の兄貴。それにしたって、手がかりが無さすぎやしねえか」
    「確かにな……。どっちの人格になってるかすらわからねぇのが面倒だ」
    「どうせ医者の方になっちまってるに決まってるぜ。あいつが起きてたら派手に殺し回って目立つから、もっと噂も立ってんじゃねえの」
    「ぎしぎし」
    「へえ、てめえにしちゃ頭が回るじゃねえか蛇骨。なるほど、一理ある。なら医者が行きそうな場所を探しに行くか」
    男たちは人探しをしているようだった。だがそれと村を襲う理由が結び付かない。少女は呆然と彼らを見つめる。その時、駆け寄ってくる複数の足音が聞こえてきた。
    「な、なんだこれは!」
    山へと働きに出ていた男達がちょうど帰ってきたのだ。破壊された村の惨状に誰もが絶句し、周囲を見渡す。その中に、少女が待っていた男の姿もあった。はっとして、声をかけようとしたところで、シャランという音と共に光が走った。血飛沫が舞う。煌めく光はうねりをあげて、男たちの首や肩、頭を切り裂いた。あっという間の出来事だった。駆けつけた男たちは一瞬で屍と化し、少女が待っていた男も肩から袈裟懸けに切り裂かれて絶命していた。
    「ふん」
    光が戻っていった先に、女の格好をした男の姿がある。肩に担いだ刀にはべっとりと血がついていた。滴り落ちていく血が、鋼鉄の土台に血溜まりを作っていた。
    「ぎし………」
    「おい。作ったばかりだぞ。あまり汚すんじゃねえ」
    「へへっ、わーったよ」
    じろりと頭巾の男に睨まれ、へらりと男が答える。紅を差した唇が笑みを作った。
    ガシャン、と音が鳴る。耳慣れない駆動音をあげながら、鋼の車が方向を変える。
    「で、医者のいそうなとこってどこ行くんだよ?」
    「もっと山間部に位置した村を探す。薬草や澄んだ水がある場所の方が、医者がいる可能性が高いからな」
    「ぎしっ」
    「へぇなるほどなあ。んじゃ、早く行こうぜ、兄貴」
    「ああ」
    頭巾の男が腰に結わえた瓢箪を手に取る。中身を口に含み大きな刺青の入った頬を膨らませたかと思うと、男は口先から炎を噴いて近くの木々や倒壊した家を燃やした。
    「もうここに用は無え。行くぞ」
    「あーあ、無駄足だったな。さっさと見つからねえかなあ、睡骨」
    「ぎしぎし」
    車輪が激しく回る。ガシャガシャと音を立て、さっきまで村だった荒れ地を後にする。
    頭巾の男が振り向いた。一瞬、少女と目が合う。しかし何も言いはしないし、何もしてはこなかった。生きている少女の存在には、ずっと気づいていたのだろう。しかし気に留めることもなく無視をした。彼らにとって無力な人間など道を歩く蟻と一緒。踏み潰したところで、生きていたところで、何も感じはしない。
    頭巾の男は何事も無く前に向き直り、鋼の車に乗って去っていく。笑い声が聞こえた。あの女の格好をした男の声だろうか。遠くなっていくその声は、焼け落ちていく村とは不似合いに、明るく楽しそうな笑い声だった。
    パチパチと周囲が燃えていく。先程まで当たり前だった景色も、まだ中に弟がいるはずの家も、全て焼け落ちていく。倒れ伏した村の男たちの死体に火の粉と灰が降り注ぐ。好いた男が、苦悶の表情を浮かべたまま動かなくなっている。
    ここはどこだろう。先程までは春の香りが漂う村の中にいたはずなのに、いま漂ってくるのは血と煙の臭いだけだった。
    「うっ……」
    突然、激痛が体を襲った。体を強く打った時の打ち所が悪かったのだろうか。ごほ、と咳き込むと、口を抑えた手のひらが真っ赤に染まった。
    「………お母さん」
    少し離れた畑に出ていた母のことを想う。無事だろうか。難を逃れていればいいが。しかし逃れ生きていたところで、村がこの有り様では、家族がこの状態では、生き地獄に突き落とされるだけかもしれない。そのことに少女が思い当たることはない。ただ、母の無事だけを思っていた。
    静かに目を閉じる。ずっと手にしていた蒲公英の花輪を握りしめた。せめてあの世で彼に渡せますように、と。最期まで大切に離さないでいた。
    炎の熱を含んだ風が吹き荒ぶ。土と血にまみれた花輪が崩れ、風に飛んだ黄色の花弁が炎に焼かれて燃え尽きた。
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