春は来たれし、恋せよ男子。 ひび割れたコンクリートに目線を落とし肩を窄めて歩く。自信のなさが全身から滲み出る歩き方はもう癖で、自分のチャームポイントといえるのは、オタク印の分厚い眼鏡だけ。
時間通りの電車に乗り込む。出入り口の脇に身を置き、リュックを手前に持ってきて抱き抱えると安心した。イヤホンをつけ、今春から始まったアニメの主題歌を再生する。車窓を眺めながらリズムに身を委ねると、なんだかいい一日が始まりそうな気がする。
駅を過ぎるにつれて、通勤通学の人が乗り込んでくる。ホームに停車しドアが開くと、溢れんばかりの人が乗り込んできた。揉みくちゃにされながら、なんとかバランスを取ろうと足を踏ん張る。電車が出発し、ドアに背をもたれる形で落ち着いた。ふぅと一息ついて前を向くと、そこには、この世のものとは思えないほど美形の顔があった。
10260