チーズケーキスペさん スペクターは類稀な直感力の持ち主だ。野生の勘とでも言うべきか。
だから、仕事が一段落して次の仕事を言い渡された時、ゾワリと嫌な予感がしたのを見逃したりはしない。
だが断ることはできなかった。なぜなら、他でもない鴻上了見の指示だったので。
そういうわけで、スペクターは相棒(たぶん)のアースを連れて陸へ上がった。与えられたリストにあるものを買い集めなければならないので、通い慣れた商業エリアへ向かう。
嫌な予感が強まるので、自然と足早になる。ただでさえ陸は人が多くてトラブルの元だ。
そうしてつつがなく買い出しを終えたところで、嫌な予感は現実のものとなった。
路地で息をひそめる別所エマと目が合ってしまったのである。スペクターが自然界の幽霊なら彼女は都会の幽霊だ。彼にとって、彼女はやはり異物だった。
あら暇そうね幽霊さん。ちょっと手伝ってもらおうかしら。
アースがポンポンと肩を叩く。諦めろスペクター。
こうなってしまっては仕方がない。厄介事は思い切って正面から始末したほうが早いのである。
さあ善は急げ、スペクターは押し付けられた追手駆除を手短に済ませた。聖天樹の前に生半可な防御は意味をなさない。
事態が一段落しログアウトした別所エマは、後始末の説明ついでにスペクターをカフェに連れ出し、お礼だと言ってケーキを一皿奢ってよこした。
甘いレアチーズケーキとバニラアイスに酸味の強いキウイソースやミックスベリーが加わり、爽やかに仕上がっている。
四月中に夏日を記録するような初夏のコーヒーブレイクに最適だ。次に了見様を休みに引きずり出す茶菓子は、チーズケーキのアイス添えにしよう。面倒事には巻き込まれたがいい土産ができた。スペクターのさり気なく満足げな微笑は、アースだけが知っていた。