澱 神の指先が俺の顎を撫ぜる。俺はそのくすぐったさに思わず目を細めながら、その手の持ち主の様子を眺めた。
人の腕ほどの指先には、鋭くうねった爪が伸びている。しかし俺に触れているそれは一欠片の害意もこもっておらず、まるで猫でも愛でるかのように優しげだ。
もしかすると、労ってくれているのかもしれない。この夢を守り、遺志を捧げ続ける俺のことを。そうであるなら嬉しくないはずがない……とはいえ。
「……少し待ってくれ。今触られると、あなたに汚れが移ってしまう」
俺はそう言って、長い指先からやんわりと身を引いた。その離れた指先を見れば、既に新鮮な赤色が付着していた。どうやら遅かったようだ。やはり触れられる前に身を引くべきだったか、と心の中だけで舌打ちをする。
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