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    らくがきとSSと進捗/R18含
    ゲーム8割/創作2割くらい
    ⚠️軽度の怪我・出血/子供化/ケモノ
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    ぶらぼ 人形夢SS
    疲労困憊狩人と、それに寄り添ってくれる人形ちゃんの話(2025/08/13)

    ##Bloodborne
    ##ゲーム
    ##SS

    「お帰りなさい、狩人様」
    夢の中に佇む人形が、私の姿を認めてそう口にした。
    私はその声の主へと目を向けた。
    「…………」
    足が、動かない。ひどく、ひどく疲れていた。今回の狩りは酷かった——いや、いつも「酷い」のだが。複数の群衆に殴りかかられ、あるいは狂った女どもの振るう焼きごてで肉を焦がされ、またあるいは我先にとはらわたや首を食いちぎろうとする獣たちに飛びつかれ——何度あの薄紫の灯りの前で目覚め直したか覚えていない。
    とにかく、疲れていた。憔悴していると言ったほうが適切かもしれない。声をかけてくれた彼女の元に歩み寄り、ただいまと返事を返したいのに、足は固まり、手も伸ばせず、唇を動かすこともままならなかった。
    「……狩人様?」
    すらりとした上背のある彼女が、小首をかしげてこちらを見ている。ああ、不審がられているのだろうか。愚かしいと失望されているだろうか。ここは挨拶を返し、歩み寄り、笑いかけたりするのが、きっと普通なのだろう。しかし私の体は、やっぱり動かない。そんなごく普通のこともできない今の自分に恥ずかしさと情けなさが襲いかかってくる。
    「あ、……にん、ぎょ——」
    と、そうしてまごついている私の元に、彼女がすいと静かに近寄ってきた。上品な作りのブーツに覆われた足が、石畳を小さく鳴らして、そして私の前までやってくると、彼女はその場に屈んで私の顔を見上げた。
    「どう、なさいましたか」
    見上げてくる陶器の顔に思わずどきりとする。彼女は人間ではない……はずなのだが、その姿はいつ見ても見惚れてしまいそうになるほど端正だ。わずかに緑みを帯びたガラスの瞳が、まっすぐにこちらを見据えている。
    静かで、無機質で、しかしほのかな温かみのこもった瞳が。
    「……っ、あ、…………う、」
    ろくな言葉が出ないまま、私は人形と視線を交えた。言葉の代わりに熱を帯びた液体が顔の表面を伝う。伝い、伝って、そして止まらなくなる。
    「うっ…………ぅううっ……‼︎ああぁ……っ‼︎」
    私は子供のように泣きじゃくった。疲れた、疲れてしまった。もう嫌だ。血まみれで、死体まみれで、狂人と血に飢えた獣の溢れかえるこの地に挑み続けることに、心折れてしまった。狩りという名の人殺しがそこかしこで容易く行われ、そして自分もそれを行なうことでしか生きていくことができないこのヤーナムで、誰が矜持など保てようか。
    いや、そんな狩人もいなくはないのかもしれない。
    ……だが少なくとも、自分にはもう無理だった。
    涙が止まらなくて、立っていることも辛くて、私はその場に崩れ落ちた。その情けない私の肩に、陶器の右手がやんわりと触れてくる。生物のような柔らかさなど持たないはずの手は、しかしヤーナムの民らのそれよりも遥かに優しく私を包んだ。それから、丸められた紙屑のようになった私の顔にそっと指を伸ばし、滴るものを掬い取った。
    「狩人様」
    抑揚の少ない声が、私を呼ぶ。号泣し続けているせいでまともに認識できていない視界に、陶器の白い顔がちらりと映る。人形は私の頬を拭い続けながら、微かに目を細めた。
    「ここは今、あなたの『家』です。ですからどうか、ご安心ください。あなたを傷つけるものは、ここには何も……ありません」
    人形の言葉に、小さく、何度も首を動かした。彼女の言葉の一つ一つに、体に染み渡るような安堵を覚えた。記憶が朧げで、かつて自分が子供だった時のことなど何一つ思い出せないが、それでも今こうして寄り添ってくれている存在が——彼女がいるという事実に、ひどく安らぎを感じることができた。
    私の肩と頬に触れている彼女の手に、恐る恐る自分の手を伸ばす。すると人形はそれに気付いたのか、私の手を両手で包み込んだ。血の遺志を力に変えてくれる、あの暖かな時と同じように。
    「……あの、さ、にんぎょう……」
    「はい、狩人様」
    ぎこちなく発した言葉にも変わらぬ調子で返ってくる返事に、じわりと心が温まる。ようやく止まった涙の残りをそそくさと拭いながら、私はふと、口を開いた。
    「——この夜は、獣狩りの夜は……明けると思う?」
    私の言葉に、人形が少しだけ目を見開いたような気がした。だが勘違いかもしれない。彼女は陶器の人形のはずなのだから。
    「……もう、このヤーナムで何をどうすればいいのか、何も、何もわからなくってしまった……。病も、記憶に染みついたことばも、正しいことも、なにもかも……。……それでも私は、この夜の終わりまで……夜明けまで、辿り着ける、かな?」
    今の気持ちを、ただ正直に吐露した。尋ねてどんな答えが欲しいとも思っていなかった。心折れ、恥も外聞もなく泣きじゃくる醜態を晒したのだ。できない、無理だと言われても仕方がないだろう。
    ああ、だが、それでも——
    今己を包んでいてくれるその手だけは、離さないままでいてほしいなどと。
    彼女はわずかに沈黙したあと、私の手を包んでいた両手に少しだけ力を込めた。

    「——はい。狩人様が、それをお望みである限り」
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