小指を折る『小指を折る』
掛け違えたボタンは直せないってこと、どうして誰も教えてくれなかったんだろう。
掘った穴にそっと子猫の体を横たえる。
きっとこの子も、私に拾われなければ幸せになれたはずだ。ごめんね。もう、誰も傷つけさせないから。何も大切にしないから。
「ノエ、埋められた?」
摘んできた花を片手に、にっこりと人好きのする笑顔を浮かべる私のたったひとりの妹。
「うん。お花、ありがとね」
まだ柔らかい土の上に花を添え、きっと明日には掘り返されて無くなっているであろう子猫の亡骸に向けて手を合わせる。
「それじゃあ、戻ろっか」
その差し出された手に染み込んだあらゆる血に顔が歪みそうになるのを堪えて手を重ねる。私は罪を償わなければならない。妹をこうしてしまった責任を、生涯をかけて。
「エリアスの家ってさ、みんな仲良しだよね」
「そうだけど、どうしたの?」
「家族を怖いとか、逃げたいって感じるのっておかしいこと、だよね」
「…?珍しいね、ノエルがそんなこと聞くなんて」
妹の様子が少しずつおかしくなっていっていることに気づいた頃、一度だけクラスメイトのエリアスに相談したことがあった。
「家族なんだ、愛し合って当然じゃないか。ご家族と喧嘩でもしたの?ノエルらしくないよ」
そう、おかしいのは私だ
家族なんだから愛し合って当然
わかってる
同じだけの愛を返してあげなきゃ
きっとエルは寂しいだけなんだ
リュカを可愛がり過ぎちゃったのかも
愛してあげられないなんて最低なお姉ちゃんだ
「そう、だよね。仲直りできるよう頑張ってみるよ。ありがとう」
私がエルだけを見ていればきっと誰も傷つかない。家族だから、普通のことだから、それに恐怖を感じる私の方が間違ってるんだ。わかってたのに、どうして子猫なんて拾っちゃったんだろう。もう絶対に間違えない。大切なものを作らない。エル以外に愛情を向けるから全部ダメにしちゃうんだ。学校を辞めて家庭教師に変えてもらおう。学校の友達、ゼンやギルには留学するって手紙を書こう。大丈夫、全員守るからね。エルに寂しい思いもさせないからね。大丈夫、だいじょうぶ。
わたしは幸せだから