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    神話のぽい進捗

    オハラの最終選択(仮城郭都市ミュラは、大きな一枚岩を土台として町が興り、寄せ集まった家々を砂嵐から守るために石組みの塀が作られ、それらが修繕、改修、増築を繰り返し、ついには聳え立つ城郭を得た都市である。ミュラ一番の見所と言えばやはり〈タキ・ルーダ〉だろう。路地や大通りを覆う色鮮やかな天蓋の下、異世界との如く広がるタキ・ルーダは乳香に始まり、周辺国の宝石や金銀細工、部族民の持ち込む原石に石炭、木炭、穀類に香辛料の麻袋、よく分からない薬草や鶏に山羊など、タキ・ルーダ、つまり鉱石市場と名乗っている割には雑多な場である。

    天蓋と言うよりも単なる布に近いそれは赤青黄と様々で、無地や柄入りなど統一感なく散らばっていた。所々の破れ目からは日差しが真っ直ぐに差し込み…ゆらり揺らぐ香の煙が、バルバロイとガレパスに起因する喧騒の合間でかき混ぜられる。

    スモーカーはマリアと共に、敵を無力化して駆け回っていた。振り上げられた十手は素人の剣を弾き飛ばし、アダンダラの強靭な尾は向かってくるもの全てを軽々と払った。案外息ぴったりの両者はバルバロイの人海戦術をものともせずに、タキ・ルーダの一区画、乾物市場の狭い路地を爆進し続ける。後を追う自治警官の士気も高く、ガレパスの名を背負っている誇りも相まってやや勇み足だ。

    ある意味、活気溢れるタキ・ルーダ。
    熱気に揺らぎ、戦意と地鳴りに家々が軋む。ミュラ上空は熱気と砂塵に薄らと濁り、大砂漠に変化をもたらそうと広がり始めていた。

    そんな大騒動に襲われている乾物市場から十数メートル離れた民家では、革命軍構成員とオハラの生き残りが集まっている。

    『指揮官は討った。残りは白猟とアダンダラの二人だ。あの指揮官よりもこっちの方が厄介だな。』
    「それは同意するけど、サボ君、今どこにいるの。」
    『スクターマルの大倉庫。やっと砂上船を見付けた。こんな広い地下岩窟がスクターマル郊外にあっただなんて、この数年で一度でも聞いたっけか?』
    「存在だけは風の噂でね。それで、砂上船は借りれそう?アダンダラ討伐作戦には必須でしょ?」

    コアラが外の様子に気を配りつつ、電伝虫越しのサボと話している。ローブを羽織った壮年のオハラ学者達は、迫る戦闘音に身を強ばらせていた。

    彼らは幸運にもあの時オハラから離れていた学者達であり、不幸にも帰る場所を失った流浪の民だ。そんな彼らにはこれまで数々の不幸が降りかかった。しかし彼らは諦めず、革命軍の助けを借りて今日の今日まで生きている。

    『問題ない。一隻確保した。あとは出港の合図待ちだ。出航したら艦隊を離脱するから…。』
    『アダンダラ討伐ですか?』
    「!? サボ君、君さっき討ったって!!」
    『コアラ、後は任せる!!支度しといてくれ!』
    『討伐は無理だと思いますよ。』
    「逃げて!サボ君!!」

    そう叫んだコアラだったが、サボは聞かずに通信を切った。元オハラ島民は大慌てて荷物を抱えて、事前に決めてあった逃走経路の最終合流ポイントへと移動し始めている。しかしその内の一人が狂乱気味の声を上げ、全ての荷物を投げ出した。かなぐり捨てるようにして、大切な思い出の品も含まれているボストンバッグまでもを投げ捨てたのだ。

    オハラの研究室で愛用していた大切なマグカップが、地面に当たってガシャリと割れる。

    「無理だ!無理だろ!相手はアダンダラだ!もう逃げ場なんかない!!あれは、あれはただの能力者ではない!!人ではない!!」

    年老いた、目元のシワが目立つ男は頭を抱え、小石の転がる地面に蹲る。隠れ家はシンと静まり返り、地上の争いすらも少しばかり静かになったように感じた。

    「俺らは認知してしまった…自己暗示は簡単じゃないし、記憶喪失になりたくてもなれないんだ…。」


    さて、時を少し遡り。

    故郷を失い、眠れぬ日々を過ごしていたオハラの学者達は革命軍に保護され、拠点の一つに迎え入れられた。その際に革命軍はオハラの頭脳と叡智を頼り、オハラは革命軍の組織力を頼って手を取り合おうとの話し合いをしている。つまり相互利益に乗っ取った協力関係が根本にあり、学者達は革命軍の仲間として歓迎されたのだ。

    それから数年後。
    アダンダラの能力はオハラによって解明された。

    いわゆる所の〈集団幻覚、集団認識の現実化〉とでも言えば良いのだろうか。それはあまりにも厄介で、場所さえ整えれば勝利が確約されるものでもある。しかし理屈さえ分かれば、対策も見えてくるもので、アダンダラ討伐作戦に求められる条件は三点にまで絞られた。

    まずアダンダラを知らない戦闘員が必要数得られること。そして非加盟国、もしくは世界政府に把握されていない未開の地であること。最後に、海軍艦隊の即時派遣や火力支援が望めない内陸であることだ。

    そんな地を探して様々な島を巡り、最終的に内陸の非加盟国ガレパスが良いだろうと結論を出した彼らは、案外あっさりとスクターマルに馴染んだ…のだが本格的な開国活動が始まり、今で呼ばれるところの二大勢力、賛成派ガレパス・キャラバンと反対派バルバロイが明確なものになった。同時期にテーベ・キャラバンを連れたテクタと、それを追うCP候補生が入国。開国賛成反対の内紛で揺れる最中に、ワーハラヌ砂丘で外から来た者による騒動が起こってしまった。このワーハラヌ事件は開国反対派にとって追い風となり、一時的ながらにも開国反対ムードが高まったと言う。

    そのムードを好機と見た革命軍は即座に行動を起こし、政府の更なる介入を避ける為にも開国反対派の活動を支援した。

    しかし、一人の娘が立ち上がる。
    それがサハリだ。

    サハリはハインとの交渉時にこう話した。

    『勝った負けたの話をするつもりはないの。これからの未来のことを、ガレパスとバルバロイの皆で考えないといけないのよ。なのにこんな紛争をしていたら自国の力を消耗して、他国からの信用がなくなって、長年続いた貿易も国交も水の泡なのよ。』

    長期間の内紛による治安の不安定化。
    故に発生する物資不足と盗賊被害。一部地域では営利誘拐が準日常化し、どこに行っても薬は足りず、国自体の信用にも影がかかり始めている。

    何より、失われゆく命の多いこと!

    命の消費を止めるには、兎にも角にも無理やりにでも、勝ち負けなど関係なしの早い決着が不可欠であった。なのでサハリは、冷静に現在の戦況を考えて、国外の軍を求める決断をしたのだと言う。

    そうして正式に参戦することとなった海兵三名の内二人、ハインとスモーカーについて、革命軍は『厄介だけれど戦力的な驚異ではない』と判断していた。

    ハインは裁量こそ得ども、所詮は後方勤務の情報局員。スモーカーは始まりの町出身の大佐止まり。ともなれば中評価が良いところだ。それに、情報畑の人間が本領を発揮するにはある程度の土台、つまり支部や事務所を核とした情報網が必要になる。ガレパスにそんな土台などないので、情報局員は動けない…と、サボは参謀総長としての経験から知っていた。

    情報戦も単純火力も程度が知れる相手となれば、極度に警戒する必要など一体どこにある?と考えるのが至極当然だ。アダンダラを目前に控えていたのなら一層、警戒心はそちらへと向く。ならば定石で指揮官だけ仕留めておくか…とサボはスナイパーを手配し、見事撃ち抜いたはずだったのだ。

    残念なことに革命軍は今も尚、ウロボロスの存在を知らず、ハインが何かしらの能力者であるとの予測しか立てられないでいた。何せハインは非戦闘員。スモーカーやアダンダラとは異なり、戦闘に関する情報は皆無。名前すらほとんど知られていないのだから、人に聞こうにも探ろうにも、収穫は得られないのである。

    「海は広い…世界を相手とするには、オハラはあまりにも不足が過ぎた。」

    長年に渡って見ないようにしていた現実を、ついに認めた彼の諦めはじわりと広まり、オハラ学者達も観念して荷物を地面に置く。

    「…サボさんの話によれば、相手の中将は話が通じるらしいな。」
    「どうかなかぁ…会話は成り立つけれど、同情は期待できない根っからの参謀、情報畑育ちって評価だよ。」
    「ある意味信用に足るじゃないか。曖昧な感情や伝承に頼らず、メリットデメリットで話ができる。俺らは自分達の価値を理解してるつもりだ。頭を担保に、少しくらいは張り合えるんじゃないか?」

    海軍の簡易情報網は一週間で敷き終わっていた。

    彼女達は現地のキャラバン組合や自治警察の持つ情報網を借り、大概の中心であるロットワイマラナー邸を拠点として運用したのだ。その上にアダンダラはキャラバン組合や自治警察ではカバーし切れない局所的情報収集を完了させ、ハインの広域を把握する簡易情報網に生じる隙間を埋めていた。そしてスモーカーは確かな技量で戦線を押し上げると同時に、バルバロイ転じて革命軍の持つ情報網を断ち切り続けている。

    「俺らには価値がある。あんたらが俺らに期待して助けてくれたように、あちらさんも何かしらの期待を寄せてくれるかもしれない。」
    「殺されるかもしれないよ。そこまでするくらいなら、分かった、すぐに撤退しよう?サボ君に連絡するから、バルバロイには申し訳ないけど、一回逃げよう。」
    「残念だが俺らオハラは知られちまった。世界政府は地の果てまで追ってくるだろうさ。それくらいなら、話の通じるかもしれない中将に期待して、命乞いしてみても良いんじゃないかね?」

    俺らの手札はもうその一枚しかない、と彼は言う。

    「にしてもパンドラ島出身の化け猫なぁ。知った時はつい笑っちまったよ。海軍は上手いことやっちまったんだなって。」
    「集団意識の現実化は悪い事じゃないよ…皆が勝利をイメージすれば勝利を確定できるけど、負けると思えば負けが確定しちゃう。海だとほとんどが〈聖母の名を冠する〉アダンダラの逸話を知ってるから、出会った瞬間に死を覚悟するもの。どうやっても勝ち目がなかった。」

    自治警察を初めとしたガレパスの民は、既にアダンダラの名を認知し始めている。基地で待機する戦士達ですらも、どこかから流れ込んでくる噂や逸話を聞いては慄いていた。

    そこでコアラはやっと気付く。

    (どこかから流れ込んでくるアダンダラの活躍話、出処はあの中将ってわけね…噂を流布する人手なんてどこから募ったの…三人だけって聞いてたのに。)

    それは、絶妙にも噂の域を出ない逸話であった。しかし実際に対峙したのなら、バルバロイの敗北もといガレパスの勝利は時間の問題になるだろう。死にたくない、負けるかもしれない、勝てっこない!と思うバルバロイが増えれば増えるほど、アダンダラは力を増すのだから。

    「革命軍には感謝してる。あんたらのお陰であちこちの海を巡って研究ができた。政府からもずっと守ってもらった。恩返しと言っちゃ何だが、この場は俺らが収めてみよう。話し合いで解決できるなら、それが一番いいことだろ?」
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