勝負幼さの残る瞳が青く輝きながら殺気を放っていた。高校生くらいの少年の視線の先には、金色に危険な光を放つ獣の目があった。今にも爆発しそうな空気の中、四方を囲む黄金の城壁の下から、煮えたぎる地獄の叫び声が耳元に聞こえてくるかのようだった。二人の主役が、開戦の幕を上げようとしていた。
その時、不意に、この場にはいなかったはずの声が割り込んだ。 「やめましょう、獣殿」
影のような男がどこからともなく現れ、黄金の獣の隣に立った。狂気が入り混じった現場の雰囲気とはまったく合わない、落ち着き払ったメルクリウスの声が聖殿に響き渡る。 「あなたが再び生まれ変わるべき日は、今日ではありません。覚えておいででしょう、黎明の角を」
「魔術の条件を整えるのは卿の領分ではないか? 私の役目ではなかったはずだ」
目の前の決戦を邪魔されることに対する不満が滲んだラインハルトの声にも、メルクリウスはまったく動じることなく続けた。「それは申し訳ない。しかし、準備が早急だったからといって、手を引いて残りすべてを台無しにするのを黙って見ているのも私の面目には関わることでしょう」
ラインハルトが目を細める。正直、少年蓮の目には、相手はさっきより少しも危険度が下がったようには見えなかった。少しでも隙があれば、すぐにでも奇襲を仕掛けられるかどうか。蓮は息を殺して注意を払っていた。
そしてどれほどの時間が経ったのか分からないが、未だに平行線のように続く会話の中、蓮はついに決断を下した。 「お前らだけで勝手に話を終わらせるな……!」
言い終わる前に、二人の視線が蓮に向けられる。そのうち、自由意志のない無機物に対するような目で、メルクリウスが蓮の言葉を遮った。 「ああ、そうか。どうしても勝負を決めたいというなら、今日はこれで済ませてもいいだろう。」そう言って影のような男は懐から何かを取り出し、放り投げた。
一方的でありながらも、相手を慮るかのようなその話し方が蓮の苛立ちをさらに煽ったが、とりあえず蓮は反射的に飛んできた物を掴んで、見つめた。 赤い紙で包装された、見覚えのあるパッケージ。まるでメルクリウスが蓮の家の近所にあるコンビニで買ってきたものを投げたのだとでも思えそうな……
その物の正体を理解した瞬間、蓮は思わず「ふざけんな」と呟いてしまった。数歩しか離れていない場所では、メルクリウスがラインハルトに「ポッキー」と「ポッキーゲーム」について簡単に説明をしていた。
説明が一段落した直後のラインハルトの反応はこうだった。 「乱心か、カール?」
そして容赦なく振り下ろされる黄金の聖槍。一歩も動かずまともに受けた影は、しかし、全く損傷を受けていないように見えた。影が立っていた地面が割れて回復する様子だけが、さっきラインハルトが槍を振るった証拠として残されていた。とはいえ、それも一瞬で元通りになってしまったが。
槍を振るった本人は、まるでそれが起こると知っていたかのように動じることなく、淡々とした様子だった。お互いを盟友と称する間柄のくせに、ラインハルトがいったいどれだけメルクリウスを殺そうとしてきたのか、蓮は胸に疑問を抱いた。
形はどうであれ、戦いを止めようとするメルクリウスの意図は恐ろしいほど効果的だった。ラインハルトはさておき、蓮は正直もうあの馬鹿げた連中に関わりたくない気持ちになっていた。
もし次があるなら、絶対に11月11日にはラインハルトと戦わないようにしよう。気の抜けた表情で、蓮はそう考えたのだった。
おまけ:蓮とラインハルトが実際にポッキーゲームをする謎の現パロ
ラインハルトが手にしたパッケージを開ける。手袋をはめた手で細い菓子スティックを掴んで口にくわえる姿は、動作だけを見ると高級な葉巻を吸う上流階級のようで、非常に違和感がある。蓮は状況から逃れるように、伏し目がちなラインハルトに「お前、まつげ長いな」などと声をかけるのを忘れなかった。
そしてラインハルトは蓮に向かって、くわえた菓子の先端を差し出してきた。考えてみればこれほどぎこちない光景はないだろうと呟きながら、蓮はラインハルトがくわえている菓子の反対側をくわえた。溶け出したチョコレートの恐ろしいほど甘い味が口の中に広がる。息が触れるほど近い位置に、蓮の目線より少し高い場所に、見ていると死にたくなるほど美しい男の顔があった。
やがて反対側から菓子を噛む音が聞こえ始めた。 その瞬間、この状況を作り出した元凶の顔(実際にはややこしいが、不思議なことに蓮と同じ顔だ)を思い浮かべ、必ず復讐してやると蓮は心に誓った。