認めて欲しい葵も母さんも寝静まった時間、ベットの上でぼぅ…と壁に体を預けながら虚空を見つめる
「イグリット」
小さく呼べば床から目立つ赤いプルームとともにイグリットが現れる、普段の旬と雰囲気が違うのを瞬時に察知したのか、旬と目線を合わせるために少し屈み顔を覗き込んでくる
「なぁ、イグリット…」
名を呼んでイグリットに遠慮がちに伸ばしマントを掴む
どれだけ強くなり、奪われたものを取り返しても満たされない部分に時折蝕まれ、一番近しい存在のイグリットに助けを求めてしまった
「な、イグリット…父さん…褒めてくれ…」
「………」
つい、本音が溢れてしまう
旬に一番長く従うイグリットに失礼な行動だと十分理解しているが、どうしても我慢できなかった
父親が行方不明になってから旬の激動は始まり、母親が溺水症になり更に藻掻き、自分なりに足掻いて妹の葵を守り生きてきた、それを認め、褒めて欲しかった
プレイヤーとなり、S級までのし上がったのに、そんな衝動は消えず膨張する一方だった
「父さん…とうさん、なぁ、なんで」
帰ってこないんだよ…
ぐるぐると渦巻く僻みと欲求、不満全てが入り混じり旬の前に居るのが誰なのかも忘れ、ボロボロと思ったことを口にしてしまう
泣いてはいないが悲痛な訴えをする旬にイグリットの体が硬直し、腕が彷徨っていた
こんな心の弱い君主に従っている事にきっと幻滅しただろう、そう分かっていても隠せなかった
「ごめん…今だけ、今だけだから…」
自分に言い聞かせるように呟く、そう言いながらマントを握り締めた指は力を込めすぎて白くなっていた