闇鍋ならぬ赤鍋だった今日も影を従えダンジョンを攻略し帰宅する
玄関を開けて早々、目と鼻を襲う刺激臭にそっと開けた扉を静かに閉める
中に入らず扉を閉めたSを不思議に思ったのか、道中荷物要員として回収し付き合わせたBが背後から覗き込んでくる
「どうした?」
「…今日の夕飯って、兄さんだったよな?」
「連絡無かったらから兄さんのはずだけど?」
え、連絡見落としてたか?と少し焦りながらスマホを取り出し確認しているBに場所を譲り、無言で扉を開けるよう顎でしゃくる
「えぇ…?なんも連絡ないケド…」
恐る恐るノブに手を回し、ドアを半開して数秒固まりガチャンッ!と重い金属音を響かせ、勢いよくドアを閉める
「ばか、おまっ…静かにしめろっ」
「あ、…ごめん…」
Bの後頭部を軽く叩いてしまう、せっかく静かに閉めたのに水の泡だ
Bは叩かれた頭を数度手で撫で謝罪してくるが、顔は青白く、忙しなく視線が動いている
「ど、どうしよう…バレたよな…」
「…あんな音したら兄さんでも気が付くだろ」
「う、うぅ…」
どうしよう…と所在なさげに見てくるBと数秒見つめ合ってしまう、助けてほしいのは俺だって一緒だ
「…お、俺っ用事あるからっ!」
後は頼んだ!と食材が入っている袋を押し付け、脱兎の如く走り去ろうとするBの首根っこを鷲掴み逃走を阻止する
「逃げんな、おまえが行って来い」
「ほ、ほんとっ、ごめんむりっ…」
「お前の方がまだ耐性あるだろうがっ」
玄関先で近所迷惑にならないように、ヒソヒソと押し問答をしていたら、玄関の扉がギィッ…と不吉な音をたてて静かに開き、2人して固まる
「…中々入ってこないと思えば…随分楽しそうだね?」
「「………」」
ドアから刺激臭と共に顔半分を覗かせ、此方を見つめてくる兄の瞳は底なし沼の様にドス黒く、胃が縮む…なぜ…お前が…
「馬鹿やってないで早く入んなよ」
「「はい…」」
今も尚逃げようとするBを引き摺り、諦めて玄関を潜る
拒否権はどのみち無いのだから、お前ももう諦めろ
「あ、おかえり…買出しありがとう」
「ただいま兄さん…その、今日の夕飯、すごいな…」
「え、そうかな?今日は闇が代わりに作ってくれてさ…美味しそうだよね」
「……あぁ、そう、だな」
「?」
リビングに入れば、禍々しい刺激臭を放つ鍋がテーブルの中央に鎮座し、人数分の皿を用意していた兄さんがニコニコと嬉しそうに報告され、Sはスマホを取り出し明日の予定を全てキャンセルする連絡を送信する
「いっったいな!?足蹴るな!」
「トロイお前が悪い」
「なんだと!?」
遅れてリビングにBと闇が入ってくると一気に場の雰囲気が賑やかになり騒がしくなるが、心なしかBの顔は未だに青白く見える
闇がリビングのドアをパタリと閉めると、何故か緊張が走り、沈黙が襲う
既に椅子に座って待っている兄さんだけはこの緊張に気が付かないのか、ニコニコと笑っていて場違い過ぎて逆に怖い
「今日は俺が丹精込めて作ったんだから…残すとかやめてよ」
足がすくみ、動かない俺たちを追い越し、テーブルに近寄った闇は、邪悪さを漂わせ微笑む
隣にいる兄さんと顔は一緒なのに真逆な笑みをしている2人に俺たちは互いの服を掴んで震えるしかなかった