俺が守るよ「俺はモンドの出身なんだ」そう言うトーマの横顔は、懐かしさや寂しさが入り混じった複雑な表情を浮かべていた。
「なるほどね……」俺は相槌を打ちながら、自分の右手の指先を左手で握る。「帰りたいって考えたことはある?」空が訊くと、トーマは首を横に振った。
「ないな。あそこは故郷だが、もう帰るところじゃない。それに……」彼はそこで言葉を止めて、少しの間黙り込んだ。それから口を開く。「……俺にはここでやるべきことがあるからね」
彼の瞳の中に揺らめく強い意志を見て、俺は思わず息を飲む。そして、ふっと短く笑う。「それならいいんだ」
トーマが不思議そうな顔をするので、「なんでもないよ」と付け加えた。
俺たちはしばらく無言のまま甘金島の祭りの出店前を歩き続けた。街灯に照らされた夜道はもう行き交う人の数も少なくなっていた。今日はトーマが稲妻の祭り会場に案内してくれると、2人で訪れたのだった。
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