「この服、涼しくて快適だな!」
瞳と同じ蒼色の、異国の民族衣装に身を包んだシドが、随分と機嫌良さそうに前を歩いている。
これはウータイの民が夏場に着るという、「浴衣」という服だ。断ったのだが、何故か私まで強制的にこれを着せられ、更に髪まで結われるという始末だ。
しかしこの服は、一般的なものと比べて随分と軽装だ。心做しか、少し落ち着かない。
…こんなに、胸をはだけさせて着るものなのか?
「おい、ヴィンセント!しけたツラしてんなよ、もうちっと嬉しそうに歩け!」
「履物のせいで歩きにくいんだ」
それは我々のよく知る、サンダルと形が似ていたが少し違っていた。
木と紐を組み合わせて作られたもので、彼等は「下駄」と呼んでいたか。シドは何故かこれを履きこなしているが、私はどうにも慣れず、うまく歩けずにいた。
「オメェよぉ」
「なんだ」
「服も髪型もせっかくいい感じなのによぉ、歩き方のせいで全部台無しだな?生まれたてのチョコボでももう少しちゃっちゃと歩くぜ?」
「だったら肩を貸してくれ」
シドが返事をするよりも早く、私は彼の肩に腕を回した。
「くっつくんじゃねえよ」
「冷たいことを言うな、嬉しそうに歩いてほしいんだろう?だったら協力してくれ」
「なんでオレ様がんなこと…!」
「これを着ろと言ったのはあんたじゃないか、責任くらい取ってくれ」
「……う」
この赤い浴衣を着ろと言ったのも、髪を結えと言ったのも、そして、その髪を留める飾りを選んだのも、全てこの男だ。
シドの我儘を全て聞いたのだ。私にも、彼に我儘を通す権利はあるはずだ。
彼の肩を借り、異国情緒漂うウータイの街並みを下駄を鳴らしながら歩いた。
そして赤い橋の上で、ぼんやりと空を眺めた。もちろん、肩は組んだままで。
「…日も暮れてきたな」
「…おぅ」
夕日で照らされているせいか、それとも別の理由かは分からないが、シドの頬はほんのりと紅く染まっている。
「…ヴィン」
「どうした?」
「……似合っ、てるぜ。その…簪…とかいう飾り」
そう言い終わるや否や、シドの顔がますます紅くなった。大きく開いた胸元も、ほんのりと染めて。
「ありがとう…シドもよく似合っているぞ」
そう耳元で囁いたのが相当効いたらしく、シドは私の腰の辺りを強く抓み、胸元に顔を埋めて黙り込んでしまったのだった。
この男は、こう言うところが可愛らしい。
…少し早いが、もう切り出してもいい頃か。
「シド……どこか、静かな場所に行こう」
シドは静かに頷き、私の腰を支えて歩き出した。
私の我儘は、まだ全て聞いてもらっていない。
夜は長い。これからたっぷりと、彼に聞いてもらうつもりだ。