無題厚い雲に覆われた夜空を眺めていた。
灰色の雲にぼんやりとした白い光が一つ、頼りなさげに光っているが、その光は一瞬にして再び雲に覆われてしまった。
「はぁ〜、今夜はもう無理かぁ…」
辛抱強く耐えていたシドもさすがに痺れを切らし、諦めたかのように煙草に火をつけた。
「何故、こんな曇り空の日に月を?」
シドの隣に立ち、共に空を眺めていたヴィンセントが尋ねた。
お互いに示し合わせて月見に来ていたわけではなく、シドの思い付きによって数時間前に呼び出され、こうして月が顔を見せるまで共に待ち続けていた。
呼び出された際も、「月を見るぞ」としか言われておらず、どんな理由があってそこまで月に執着するのか、ヴィンセントには分からなかった。
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