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    @tumugi_mB

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    飯受けワンドロお題「願い」「嘘」
    カプ要素薄い孫親子話です。

    空白の埋め方 朝起きてまず確認するのは父の気がこの世にあるか、ということだ。
     たった一日この世へ還ってくる予定が、まさか老界王神の命をもらって本当に帰還が叶うことになるなんて誰が想像できただろうか。
     悟飯にとって十六年、否精神と時の部屋の分も加えれば十七年の人生のうち、父と共に過ごせた時間は短い。記憶がほとんどない赤ん坊の頃から四歳まで、ベジータやナッパと闘ったとき、ナメック星に行ったとき、ナメック星帰還後からセルとの闘いまで。
     およそ八年といったところだろうか?人生の約半分だ。
     七年ぶりの帰還に家族と仲間たちはひどく喜んだ。ブウとの闘いが終わった後、数日間皆が孫家をひっきりなしに訪れて父の顔を見に来たものだ。悟飯ももちろん嬉しい。七年も離れていたのだから、積もる話は山程あった。
     しかしいざ話そうとすると、なんだかうまくいかない。
     悟飯は七年前、父とどんな話をしていただろうか。どんな話し方をしていただろうか。そもそも、修行や闘い以外の話を父とするのはいつぶりだろうか。
     確かにあったはずなのに、うまく思い出せない。
     悟飯の夢は学者になることで、父もそれを承知で応援してくれていたはずだ。それは揺るぎないはずなのに、応援してくれていることを確信するくらいなにか話をしたはずなのに。
     七年は長すぎた。
     セルとの闘いで見た父の最期が今でも目に焼き付いている。父との思い出は、その強烈なショックで塗りつぶされてしまったんだろうか。


     着替えて食卓を覗くと、とっくに父は起きていて朝食の準備を手伝っていた。悟天はすでに自分の席についていて足をパタパタさせている。空腹なのだろう。
    「おはよう、ございます。おとうさん」
    「お!おはよう悟飯。今日はいつもより遅かったなあ」
    「え?そうですか……?」
    「なに言ってんのおとうさん。兄ちゃんいつもこれくらいだよ。夜おそくまでがんばってるからだーっておかあさん言ってた!」
    「お?そうなんか?でも前は……あはは、ありゃ朝に修行してたからか!」
     朝の修行。七年前までのことだ。
     未来から来たトランクスの言葉を信じて、ピッコロと共に修行をしてからセルとの闘いまでの期間、悟飯と父は少し修行をしてから朝食を摂る、という生活をしていた。当時は勉強よりも修行を優先させていたから、朝早く起きるためにも夜ふかしなんてしていなかった。

     父の言ういつもとは、七年前のことだ。

     こういったことが何度かあった。
     会話の端々に七年の時の経過を感じる。父がこの世について知っていることのほとんどは七年前のことだ。悟天の存在を知らないくらいだったのだから、きっとあの世から覗き見るということもしていなかったのだろう。
     父は気にならなかったのだろうか。遺してきた母や仲間や、息子が。
    「今は朝の修行はしてなくて……すみません」
    「え?別に謝んなくていいけどよ。平和になったってことだしな。まあオラとしてはちょっと残念だけど」
    「悟空さ!悟飯ちゃんの勉強の邪魔はするでねぇぞ!今朝だって修行だーって起こしに行こうとして……遅くまで勉強してんだから寝かしてやるだ」
    「わ、わりいわりい。つい……」
     大量の皿をどんとテーブルに置いて、母は父の肩をバシっと叩いた。父には痛くも痒くもないだろうが、ちぇーっと口を尖らせて子供のような顔をするからなんだか微笑ましい。
    「おかあさん、ボクなら大丈夫ですから……たまには身体も動かした方がいいですしね」
    「おっ!じゃあ飯食ったら父さんと出掛けるか?」
    「いいですよ」
    「悟天もどうだ?」
    「ボク、トランクスくんのとこに遊びに行く約束してるから」
    「そっかあ」
    「まったく!ほどほどにするだよ!」


     朝食後、悟飯は父と連れ立ってパオズ山のひらけた場所にきて案の定修行をした。潜在能力を限界以上に解放したのはつい数週間前のことだから、まだまだ身体は鈍っていなかった。自分を軽くいなす息子に楽しくなったのか、父は笑っていた。
     毎日修行漬けの悟空にも難なくついていけて少しホッとしたし、久々の父との修行はやはり楽しかった。
     しかし夜まで続くと思われた修行は、昼食を前にやめになった。
    「悟飯!そろそろ飯にしよう」
    「あ、もうそんな時間ですか。何にします?肉か魚か……」
    「魚かな」
    「わかりました。じゃあボクちょっと潜って捕ってきますよ」
    「あ、待った待った」
     近所に川があったはずだな、と向かおうとした悟飯の肩を父がガシッと掴んだ。なんだろう?と立ち止まると、懐を漁ってカプセルを取り出した。
    「今日はこいつを使うぞ」
    「なんです?それ」
    「こいつの中はホレ、釣り竿だ。久々にどうだ?」
     ポン、と取り出されたのは確かに二本の釣り竿だった。父と悟飯のものだ。
     悟飯は釣りが好きだ。サイヤ人の襲来よりも前、父が教えてくれたことのひとつでもある。
    「懐かしいですね」
    「前に約束もしたしな」
    「約束……あ」
     五歳頃だっただろうか。ベジータとの闘いの中でそんな約束をした。生きてかえったらまた釣りをしよう、と。
     ぽかんとしていたら、竿を二本担いだ父に行くぞ!と言われ慌てて追いかけた。


     穏やかな川に糸を二本垂らして、二人は並んで座った。食事のために魚を捕るなら、潜った方が圧倒的に早い。それでも釣りが好きなのは、父と最もゆっくり話ができる時間だったからだ。
     幼い頃、読んだ本の話や、美味しかったおやつの話をたくさんしたと思う。他愛のない話ばかりだった。
     自分がサイヤ人であることも知らず、地球の危機もない穏やかで幸せだった幼い頃の朧気な記憶だ。
    「なあ悟飯、この世に戻ってきてからずっと思ってたんだけどよ」
    「えっ、はい。なんですか?」
    「なんかさあ、話し方がなんちゅーか、前と違わないか?」
    「そう、ですかね……」
     まさか父がそんなことを気にしているとは思わなかった。
     かつての悟飯は父とどんな話し方をしていたのか、なんだかうまく思い出せなくてクリリンたちと同じ接し方をすることにしたのだ。
     昔から目上の人には敬語を使いなさいと言われていたし、父や母にもときどき崩れつつも敬語を使っていたはずだから、気にされないと思っていた。
    「他人行儀っちゅーか、……悟飯、オラのこと怒ってるか?」
    「ぼ、ボクがおとうさんを?まさか!」
     むしろ父が悟飯に怒っていてもおかしくないはずだ。悟飯がセルで遊んでしまったから父に死をもたらした。ブウとの闘いでも結局父にすべてを任すかたちになってしまった。
     期待に応えられない不出来な息子だと思われていてもおかしくない。
    「悟飯はさあ、闘うのが好きじゃねえんだろ?昔ピッコロに言われたよ」
    「ピッコロさんが……?」
    「なのにお前にはほんとに小さい頃から闘いばっかりさせちまって……ごめんな。オラがもっと強かったら、お前に辛いことばっかさせずに済んだのにな」
     父がそんな風に思っていたとは思わなかった。
     以前に比べて修行に誘われる頻度が減ったのは、てっきり勉強に集中する悟飯を気遣っているのだと思っていた。
    「ほんとはさあ、修行以外にも色々できたらいいんだけど、オラにとって楽しいことってやっぱ修行が一番でさあ……なあ、修行もあんま好きじゃないか?オラに無理に付き合ってくれてるんか?でもホラ、天下一武道会に出るってときは結構楽しそうだったし、キライってわけじゃないんだろ?」
    「キライじゃないし無理してないですよ!おとうさんとの修行は楽しいです」
    「ほ、ほんとか?」
    「ほんとです。その、ここ七年は勉強ばっかりでさぼりがちでしたけど、修行は楽しいですよ。おとうさんにとって修行が一番楽しいことであるように、ボクにとって一番楽しいのは勉強ってだけなんです」
     悟飯が修行を好きか分からなかったから、早めに切り上げて釣りをしようと言ったんだろうか?
     それでも修行をしないという選択をとらないところがなんだか父らしい。自分の好きなことを悟飯が好きだと嬉しいと思ってくれているのかもしれない。
    「そっかあ~なるほどなあ!良かった良かった。じゃあこれからも付き合ってくれよな」
    「毎日は厳しいですけど、いいですよ」
    「あの世でもつええ奴がいっぱいいてさ、あっちでの修行も楽しかったけど、チチの飯を腹いっぱい食えて、おめえやベジータやピッコロやクリリンたちと修行できるこの世の方がやっぱ楽しいな」
     思わず涙が出そうになって、唇を噛んだ。
     かつてこのひとは、この世にいない方がいいかもしれないなんて言ったのだ。
     地球を救うために蘇ったことを不本意に思っていないだろうかと、ずっと心に引っかかっていたのだ。
    「ときどき修行も一緒にしますから、もう突然いなくならないでくださいね」
    「あはは、なんねえよ」


     対戦相手のウーブという子を背に乗せて、天下一武道会の舞台から飛び去った父に開いた口が塞がらなかった。
     もう突然いなくならないって、言ったのに。
     父の思う家族や仲間の傍は、もしかしてこの星全域なんだろうか。瞬間移動が使えるというのも考えものだった。
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