戯け話「なあ見てみろ、新薬ができたんだ」
私は自慢げに薬品の入ったフラスコを、目の前の助手に見せつけた。
「わあ、やっとできたんだ。やっぱブラッドは凄いね」
「そうだろう、久々に成功したんだ」
「へえ、僕には違いがよく分からないけど…」
全く、新薬のロマンが分からないなんて、研究者の助手としてまだまだだ。
「あとは検証だけなんだが…」
ここでふと、私は軽い冗談を助手に投げ込んでみることにした。
「お前、実験台になってみるか?」
❋
「じ、実験台…?その薬の?」
「ああ、これ以外に何がある?」
私にしては少々大人気ない戯言かもしれないな。さあ、君はどんな解を示す?
「いいよ」
?
今こいつなんて言った?
新薬って言ったし、安全の保証もない。数パーセントのズレも命取りだ。承諾する可能性なんてほぼ無に等しいから、断られること前提での冗談だったのに。
目を丸くして固まっていると、私の行動を待っていたであろう助手が続けた。
「早く頂戴?飲めばいいんでしょ」
さも当然のごとくこいつは言う。いやいや、何言ってんだこいつは。
❋
「おま…本気か?私はてっきり……」
「断るって思ったの?」
「…そう思うだろ、普通」
助手は軽く自分を卑下するように鼻で笑う。
「ブラッドのために死ねるなら本望だよ。どうせ役立たずの命なら、僕は君の役に立ちたい」
…少々話が重くなっている気がする。
でも、どちらにせよ、彼の目はどうやら本気だった。
❋
「ほら、早く貸してみ、ブラッドの薬なんだから死ぬことないって」
「私を過信しすぎだ!少しでも割合がズレてたら死ぬぞお前!」
立場が変わり、私はフラスコを抱きかかえ、彼に譲らない。
「ブラッドが言い出したのになんで渡さねえんだよ」
彼は不服そうだ。意味が分からない。
「…軽い冗談だ馬鹿。私がそんな助手を雑に扱うわけあるか。簡単に死ぬなんて言うんじゃない」
そんな風に思っていたのか、少々悪ふざけが過ぎたな。と内心少し反省しながら、彼に軽く叱ってやる。
少しの間の後、助手は言った。
「冗談でも本気でも、どっちにしろ僕はブラッドのためなら何でもするけど…」
駄目だ全く聞いちゃいない。