for youバレンタインは嫌いだ。ピンク色に染まる街も、世間の浮かれた空気も。
そう言ったら、モテない男の僻みか?クリーピー、と恋人が嫌味ったらしく笑うものだから、彼が後生大事にしているトゥーマッチウィットをチョコレートの海に沈めてやるところだった。
「待て待て待て待て、冗談だ!悪かったって!」
慌ててガナッシュの入ったボウルを退けてクリプトから像を取り上げたミラージュは、甘い香りに包まれている。キッチンに充満してリビングまで漂ってくるそれに集中力を削がれたのは事実だ。作業の手を止められたのだから、これくらいの狼藉は許されてもいいだろう。
「全くとんだ悪戯小僧だぜ…」
「チョコレートまみれにすればその悪趣味な像も少しは愛嬌が出ると思ってな。」
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