今日の分はこれで琥珀色の液体の中で丸い氷がカランと音を立てる。鼻に抜けるスコッチウイスキーのスモーキーな香りを一頻り楽しんだ後、クリプトが傾けていたロックグラスをテーブルの上に戻すと、不思議そうな顔をしたパラダイスラウンジの店主、ミラージュとカウンター越しに目が合った。
「それ、取れるのか?」
彼が指差す先にあるのはロックグラスに触れるクリプトの手。視線で三指の腹を覆う黒いデバイスのことを指していると察したクリプトは、グラスから手を離すと結露で少し濡れた指先を緩く擦ってみせた。確認するように下から目だけで見上げてみれば、位置関係のせいで睨むような形になってしまったのかも知れない。慌てたようにミラージュが言葉を続けた。
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