Crocus「すっげー! 秘密基地じゃん!」
突然の来訪者は、高揚感に満ち満ちた声色でそう言い放った。秘密基地。なるほど、物は言いようだな。化学実験準備室は、僕の持ち込んだ私物が並んでいて、學園の中では混沌としている方なのは事実だ。季節によって並ぶものは変わるけれど、冬場に出すこたつなんかは、別の教室で見る機会はおそらくないだろう。とはいえ、どちらかというと、宿直室に近いと思っていたのだけど。
僕は目を擦って体を起こし、開け放たれたドアの前に立つ人影に視線を向ける。電気を消していたから、逆光で細部までは分からなかったが、男子生徒だということだけは確かだった。彼は僕の存在に気付いていないのか、断りもなく照明をつける。化学実験準備室には奇人の三年生が居座っているという噂は學園中に広まっているというのに、彼はそのことを知らないのだろうか。
21431