霊幻新隆(詐欺師) 28歳
茂夫(吸血鬼) 21歳 フリーター
律(吸血鬼) 20歳 大学生
『今月14日未明、調味市の大学近郊で原因不明の集団パニックが起こったとして、調味市警察署は捜査を進めています。』
少し気を引くような珍しいニュースを聞き流しながらいつもの納豆ご飯をかきこむ。ひとり暮らし歴を10年も超えると優雅な朝ごはんなんてものへの憧れはとうに薄れ、どれだけ早く食べれるかという悲しい現実が待っている。霊とか相談所の仕事も特に刺激はなく、芹沢の助けを借りながら依頼をのらりくらりとこなす単調な毎日だ。
1つのニュースが終わる頃には食べ終わり、茶碗を洗い、歯を磨きスーツを着る。
家を出る頃にはニュースの内容なんて忘れていた。
────────────────────
「……ん?」
家から相談所までの道の途中、歩道に人らしきものが倒れていた。慌てて駆け寄り顔をこちらへ向けると、現代にしては珍しい黒髪おかっぱ頭の20代前半ぐらいの男性が顔面蒼白で気を失っているようだ。
「おいおいまじかよ……」
これは明らかに救急車を呼ぶべき状況だ。しかし救急車を呼ぶ機会など皆無なので、小学生のほうが覚えているであろう番号を必死に思い出しながら強張る手でケータイを開こうとした。
「…まっ…て」
「うおッ!?」
気を失っていたと思った男が急に起き上がり、ケータイを開こうとした霊幻の腕を掴んだ。
「なっ…お前動けるのか!?」
「きゅ…きゅうしゃ…よば…いでっ…」
「いや、呼ぶなって言ってもな…」
「…あんた、にんげん…ち、ほしい…」
さっきからこの顔面蒼白男は何を言っているのだろうか。どう見たってこれは救急車案件だし、ち、とはどういうことか。
「お前やっぱ病院行ったほうがいいぞ…?脳もやられてるみたいだし」
「ちが、…ち、」