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    sekka_0301

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    sekka_0301

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    ヴィオレナのお誕生日記念に

    賑やかな食卓「わあっ、すごーい!」
     大きなテーブルに所狭しと並ぶ豪華な料理に、ヴィオレナは瞳を輝かせる。彼女の声につられてか、はたまたごちそうの匂いに引き寄せられてか、ガジも顔を出した。
    「ねえねえ、これ全部アタシの」
     ヴィオレナの視線の先には、山のように食事が盛られた大皿を持ってやって来たハルマがいた。ギリギリ残っているスペースにどうにか皿を置き、ヴィオレナに微笑みかける。
    「ああ。どれもヴィオレナのために作ったものだからな、好きなだけ食べるといい」
    「ほんとっ あのお肉もおいしそうだし、あのサラダもおいしそう〜……!」
     ヴィオレナの顔がますます輝いた。その横でガジも待ち切れないとばかりに、舌なめずりをしている。
    「あっちのお魚もいいな〜……あっガジ! まだ食べないでよ! アタシの分がなくなっちゃうじゃん!」
     料理に向かって伸びるガジを抱きかかえて制するヴィオレナ。とは言ってもやはり空腹なようで、腕の中でうにょうにょ動く黒い尻尾と頬をくっつけ、揃って料理を見つめている。
     無邪気な様子の二人を見て、ハルマはくすりと笑みをこぼす。
    「そう焦らずゆっくり食べればいい。おかわりも沢山用意したし、足りなければまた作ってやるから」
    「わーい! パパありがと!」
     思わずヴィオレナはハルマに抱きついた。脚に絡むガジも、心なしか嬉しそうにしている。
     と、玄関で来客を告げるチャイムが響いた。
    「ん、来たみたいだな。ヴィオレナ、出迎えてきてくれないか? パパはもう少し準備があるから」
    「うん! わかった!」
     元気な挨拶と共に、勢いよくリビングを飛び出す。曇りガラスの向こうに見える大きな影を確認し、冷たいドアノブを強くひねった。
    「おじさん!」
    「こんばんは、ヴィオレナちゃん」
     そう言って顔を出したのは、ベリフェギオラだ。両手いっぱいに大きな紙袋を持っている。
    「ケーキ ケーキもって来てくれたの⁉」
     当然ながらヴィオレナたちも気になるようで、紙袋に顔を近付けたり、つま先立ちで覗き込もうとしたりしている。自分の半分ほどしか身長のない少女が周りをうろちょろしている様子がなんだか可愛らしくて、ベリフェギオラは笑ってしまう。
    「ふ、ふふっ、そうだよ。だから一旦中に入ろっか? 急かさなくてもちゃんとあげるから」
    「じゃあ早くいこっ! ケーキ、ケーキ~♪」
     鼻歌まで歌ってご機嫌だ。尻尾であるガジも、それに合わせて揺れている。それを見てベリフェギオラはまた笑みをこぼした。
     リビングに入ると、ハルマがまた大皿に乗った料理を運んできたところだった。すでにいっぱいだったテーブルの上は、ますます窮屈になっている。
    「お邪魔しまーす。ハルマ、ケーキ焼いてきたよ。ついでに廃棄のケーキとかも貰って来たから、一緒に食べよう」
    「ありがとう、ベリフェ。あとはこっちで用意するから、そっちで休んでいてくれ。先にヴィオレナたちと食べていてもいいから」
     袋を受け取ったハルマは中身を確認し、またキッチンへと下がっていった。
    「うん、ありがとう。……それにしても、いつにも増して気合い入ってるなぁ」
     料理好きなだけあって、ベリフェギオラも料理に興味津々だ。慣れた様子で荷物を片付けながらも、今日のために用意された空間に感心している。
     一方のヴィオレナは自分の席に腰を下ろし、ぐうぐうと腹を鳴らしながらテーブルの上を見つめていた。ガジも頭をテーブルに乗せ、よだれを垂らしながら皿に鼻先(であろう箇所)をこすりつけている。
    「美味しそうだね。先に食べちゃう?」
     すっかり身軽になったベリフェギオラが、ヴィオレナの向かいの席に着いた。綺麗にラッピングされた袋を、こっそり足元に隠しながら。
    「う~ん……」
     ベリフェギオラの言葉にヴィオレナは料理を一瞥する。少し悩んだ後、近くの大皿に舌を伸ばしていたガジをぎゅっと抱き寄せ、首を横に振った。
    「ううん、パパが来るまで待ってる」
     予想外の返答にベリフェギオラは目を見開いた。あの食いしん坊なヴィオレナのことだ、てっきり『早く食べたい』と返答をする前に食事を始めるのではないかと思っていたのだから。
    「お腹、空いてるんじゃないの?」
    「うん、早く食べたい。でもね」
     目の前のご馳走をつまみ食いしようとしていたところを邪魔され、ガジは不機嫌だ。腕の中で暴れる尻尾を無理矢理抑え込み、ヴィオレナはキッチンの方に視線をやる。
    「パパが言ってたの。『おいしいものは大切なひとといっしょに食べたほうがおいしくなる』って。だから、まってる」
     そう話したヴィオレナの顔は、少し大人びて見えた。彼女の言葉を聞き、ベリフェギオラはどこか安心した表情を浮かべる。
    (なんだ、ちゃんと成長してるじゃないか)
     あの日、この家に来たばかりの時、空腹で暴れ狂っていた獣のような子供はどこにもいない。目の前にいるのはどこにでもいるような、ほんの少し食いしん坊ないたって普通の少女だ。
    「……そっか。じゃあ、待ってようか!」
     ベリフェギオラが笑顔を向けると、ヴィオレナも笑みを返した。
    「うん! そうだ、あのねっ、今日ね、いっぱいプレゼントもらったの! マチュもルーナもくれたし、パパのおしごとのひとたちもくれた!」
     突如思い出した様子で、今日の出来事を話しだすヴィオレナ。キラキラした瞳で喜々として、プレゼント一つ一つについて語っている。
     いきなり始まったマシンガントークに若干気圧されながらも、それを聞くベリフェギオラは楽しそうだ。
    「そっかそっか、それはいいのを貰ったね。これはハードル上がるなぁ」
    「! おじさんも、なんかくれるの」
    「もちろん! ヴィオレナちゃんが喜んでくれるよう、色々考えたからね」
    「やったー! たのしみ! 何かな、なにかなっ」
     椅子の上で大喜びするヴィオレナは、今にも飛び跳ねそうだ。それにつられてか、ガジも機嫌を直し揺れている。
    「そんなに慌てなくても、ちゃんとあげるから、落ち着きなよ……」
     危なっかしさを感じながらも、やっぱりこういう部分は子供だなぁと感じるベリフェギオラだった。
     と、キッチンから足音が聞こえてくる。香ばしい煙と共にリビングへやって来たハルマは、こんがり焼けた肉をヴィオレナの近くに置いてくれた。
    「お待たせ。とりあえずはこれだけで、足りなくなったらまた――なんだ、まだ食べてなかったんだな」
    「うん! パパをまってたの!」
     ハルマを見上げ、ヴィオレナは自慢げに笑う。少し驚いた様子のハルマだったが、すぐ笑ってヴィオレナのことを優しく撫でた。
    「そうか、ありがとう。じゃあ料理も揃ったし、食べようか」
    「うん! 早く食べよ!」
     自分の隣に腰を下ろしたハルマを確認し、ヴィオレナは嬉しそうだ。今日一番の笑顔を見せるヴィオレナに、ハルマとベリフェギオラは顔を見合わせて笑う。
    「ふふっ、ヴィオレナちゃん、ずっと楽しみにしてたもんね」
    「おかわりも沢山あるから、遠慮なく食べるんだぞ」
    「はーい! それじゃ、いただきます!」
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