毎日SS8/18「待っていざとなったらめちゃくちゃ緊張する」
「ほんの一瞬バチッとするだけや」
「その一瞬が怖いんだろ」
ピアスを開けたい、と漏らしたのは、雑貨屋で格好良いピアスを見つけたからだ。
なら開けたるわ、と自身も耳たぶにピアスが開いているカンシが申し出て、その場の勢いでピアッサーを買った。カンシも、ニコの友達も、みんな開けている。
「ぎゃーぎゃーうっさいな、さっさとやるで」
「待ってまってまって」
ピアス開けて、とリビングで雑誌を読んでいたカンシに声を掛けた。耳を消毒し、開けたい場所に印をつける。あとはそこにピアッサーを挟み、握り込むだけだ。
「……正気?」
「ここまできてビビってる方が正気疑うっちゅうねん」
インターネットで何度も情報収集をした。ピアスを耳に着けているカンシだって、痛みはほんの一瞬だと言っていた。知ることによって緊張感を和らげていたのに、現実はなかなか上手くいかない。
「本当に痛くない?」
「モリヒトと特訓して怪我する方が痛いで」
「オレそういうのしないもん」
「モノの例えや!」
カンシがケイゴの耳たぶにピアッサーを当て、いくで、と合図を掛ける。それを止めるのは四回目だ。
「きょうび新喜劇でもこんなテンドンせぇへんで」
何度も止められたカンシが不満を吐露する。何がそんなに怖いのか理解出来ないらしい。
「いやぁ、だってさ、」
「なんやイカついピアスするんやろ?いきなりつまずいてどないすんねん」
「でも耳に穴開けるとかさぁ」
「大したことあらへんて」
ピアスを開けることへの不安から、口数が多くなる。ぺらぺらと中身のないことを喋り続けるうちに、カンシがイライラして大きな声を上げた。
「もうこれ何も言わんとブチ開けたろか⁉︎」
「ちょっ、待って、もう少し、もう少ししたら覚悟決まるから!」
「何回言うてんねんもう待ちくたびれたわ!」
じゃれ合いはいつしか取っ組み合いになり、ばたばたとリビングの床を揺らす。
カンシの頭が影になり、正面が三日月に見えたのは、完全な誤算だった。
「うおっ!」
「……」
変身したばかりのウルフは、記憶の同化があるのか少しだけ反応が鈍い。馬乗りになった体を慌ててどかし、床に座った。
「なんや、変身してもうたんか」
「そうみたいだな」
ちら、と机の上に置かれたピアッサーを見る。
「ああ、それな……」
ウルフはおもむろにピアッサーを取り、耳に当てがった。
「あ」
カンシが何か言うより先に、ばちん、とバネが縮む音がする。
「外、遊び行ってくる」
「あ……、ああ、気ぃつけや……」
用は済んだと言わんばかりに立ち上がり、ピアッサーをテーブルの上に放った。
ぽかんと口を開け、ゆったりと去って行くウルフを見送り、テーブルの上を見る。
「なんや、散々騒ぎよってからに」
ケイゴが帰ってきたら、散々文句を言って揶揄ってやろう。そう決めて、ピアッサーをゴミ箱に捨てた。