アノクニ①『好き嫌いの国』
あるところに好き嫌いの感情を持たない住人の住む国があった。
言い方を変えれば、動物も、物も、人間も、どれも等しく好きなのだ。
それを聞いて私は心底羨ましかった。
好き嫌いがなければどれほど生きるのが楽なのだろう。
だから、その国の住人になった。
それからは損得のみで生きる楽な人生だった。
ところが数日たったある日外の国へ出かけていた住人が帰ってきた。
彼はこう言った。
「自分はなんてつまらない罪深い人間なのだろう。どこへ言っても何も感じない。好きになれない。愛しいと思えない。愛してくれる人がいても愛することが出来ない。こんなに苦しいことはない。」
つまらない、そう言われればそうなのかもしれない。
私は今、何を生きる糧としているのだろう。
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