雨の日のグレムル雨の日の事だった。
俺とムルソーは部屋で過ごしていて……外の雨音を聞きながら俺はソファに体を預けてぼんやりとしていて、ムルソーは同じソファに座って本を読んでいた。
俺は困っていた。
ムルソーの部屋着はゆったりとした物で、胸元がかなり開いていて、かなり目に毒だった。
それだけじゃない。
指先も、横顔も、組んでいる脚も、全てが俺の目には扇情的に見えたのだ。
ムルソーとは恋人で、同性同士でも勿論やる事はやっている。
だから……服の下の体を知っているからこそ、意識してしまうのだ。
引き締まっていて、それでいて肉付きの良い体に……猛烈に触れて、身を埋めたくなった。
端的に言うならこの状態はムラムラしていると言う事なのだろう。
ムルソーは少し手を伸ばせば触れられそうな距離に居る。
だが……何と言うか、男としての矜持と言うべきか……あまり、がっつくような真似はしたくなかった。
だって、猿みたいじゃないか。
ムルソーは本を読んでいるだけで、隣に座っているだけなのに、俺はそれに欲情してて。
更に体に飛び付いたりなんかしたら……本格的に、男としてまずいような気がした。
だが……しないのも、問題だ。
今日はせっかく二人とも休みの日なのに、しない理由も無いじゃないか。
ただ……出来れば、向こうをその気にさせたい。
だが、どうすればムルソーがその気になるのか分からなかった。
とりあえず、テレビを付けて昼ドラを流してみた。
休日の昼ドラは結構攻めたシーンがあるからそれを見せてムルソーを刺激出来ないかと考えたのだ。
結果は不成功に終わった。
そもそもムルソーは手元の小説に熱中しているし昼ドラだって今更反応する程の物でもないのだから当然っちゃ当然の事だった。
「……」
そもそも受け手側を乗り気にさせるのはかなり難しいのだ。
受け手側の方が何倍も負担が大きいし(一応俺もムルソーのデカい体を抱くのには苦労するのだが……)、それは俺も理解している。
……もしかしたら、気持ち良いのが自分だけかもしれないと言う事も。
思えば、ムルソーの方から誘って来たのは付き合い始めてから3年間、指で数えられる程しか無かった。
殆ど……俺が誘ってる……
その事実に気付いた時、俺は猛烈に恥ずかしくなって来た。
何だか急にがっついている自分が馬鹿らしく思えて来て堪らなくなった。
これではムルソーの方から誘って来ないのも納得だ。
俺だってがっつかれたら引く自信があるのだ。
その点、受け入れてくれるムルソーの寛容さが窺える。
「……なあ、ムルソー。」
「……何だ?」
「……俺とのセックス、気持ち良いか?」
なんだか不安で当初の目的などすっかり忘れて聞いてしまった。
「……最近は慣れて来たのもあって快感を拾えるようになったな。」
「え……それって今まで気持ち良くなかったって事だろ……?」
「否定はしない。」
「……早く言ってくれよ、そう言う事……」
「私も快感を感じられるように貴方が努力しているのは分かっていたから任せていただけだ。」
「つってもなぁ……」
「それと。」
「?」
「貴方が私を誘おうと考えを巡らせているのを見るのは面白かった。」
言葉が上手く飲み込めずにムルソーを見ると、ムルソーの口角が僅かに上がっているのが見えた。
「……な、なんで分かったんだ……?」
「今の発言で確信した。誘おうとしていたのだな?」
「なっ、ハッタリだと⁉︎て言うか……誘おうとしてた訳じゃないし……」
「ではどうしようとしていたんだ?」
「……出来れば、お前の方を……その気にさせようと……」
「……フッ……」
ムルソーの微かな笑い声に更に体が熱くなった。
恥ずかしくなって足をソファに乗せて膝を抱えていると、ムルソーが身を寄せて来た。
「……たまには私が動こうか?グレゴール。」
温い体温が服越しに感じられて、おまけに至近距離から囁かれて、俺はもう限界だった。
分厚い胴に抱き付き、そのままムルソーを下にして倒れ込んでその胸にシャツ越しに頬擦りをした。
「くそぉ……こんのドスケベムルソーめ……」
ペチペチと胸を叩いてやると微かな笑い声が頭上から聞こえて来た。
「貴方の好きなようにしろ、グレゴール。」
「……お前が言ったんだからな……」
自分よりも一回りはデカくてムチムチとしたムルソーの片脚を肩に掛けながら余裕そうな笑みを浮かべるムルソーを見下ろし、シャツのボタンに手を伸ばした。