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    act243129527

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    ここに来て漸くグレムルかもしれなくなって来た悪魔パロ下編3話目
    後日談もこれから公開予定です(長い)
    あ、あとグレヒスかもしれない

    悪魔パロ 下③月明かりの無い、暗い夜だった。

    何十メートルに一本立っているか立っていないかの街灯の明かりだけが頼りで、それ以外の道は暗闇その物だった。

    そんな道を、グレゴールは当て所も無く歩いていた。

    向かう先も無く、剣を持ち出したと言うのに目的も無く、ただ歩き続けていた。

    幅の広い川に掛かった橋を渡り掛けた時、グレゴールは不意に背後を振り返った。

    音も無く後ろを付いて来ていた黒い犬はギクリと足を止めた。
    その仕草と紫色に光る片眼を見れば嫌でも正体が分かった。

    「……何のつもりだ?」
    「……はぁ……ムルソーに行けって言われたんだよ。」

    犬は瞬く間にヒースクリフの姿に変わって行き、ヒースクリフはこちらへ近寄って来る事無く柱に背中を預けた。

    「……言われただけで、付いて来たのか?」
    「……まあな。」
    「……なら、帰れ。お前の護衛なんか必要無い。」
    「ぁ……おい……」

    グレゴールが橋を歩くと、ヒースクリフが付いて来る気配がした。

    「……」

    グレゴールは苛立ちのままにヒースクリフを振り返って睨み付けた。

    「付いて来るな!」
    「……、」
    「そもそも、なんで俺に付いて来るんだ?俺からまだ奪いたい物があるってのか?」
    「……知らねえよ。」
    「……何だと?」
    「知らねえけど、放っておけねえんだよ!心当たりがあるとしたらさっき食ったあのバケモンだとは……思うけど……」

    ヒースクリフは言ってはまずい事を言っている事に気付いたのか次第に声のトーンを下げて行った。

    「……」
    「……はーークソ……ムカつく……なんでこんな仕組みに……」
    「……皆は……最後、何を言ってたんだ……?」
    「はあ?皆?……ああ……アレの事か……」
    「……俺に……何か、言ってなかったか……?」
    「……さあな……詳しくは聞いてねえよ……殆どうっせー叫び声だったんだし……それになぁ……あんなの、ただの感情の塊ってだけでお前が思うような奴等の集合体じゃねえよ。お前の言葉なんか通じねえし……通じたとしても絶対どこかしらで噛み合わねえ所が出て来る。」
    「それでも……俺を最期まで心配してくれた人達だった……」
    「……」

    ヒースクリフは黙り込んでグレゴールを見つめた。

    「……俺から、何もかも奪って……楽しかったか……?キャサリンも……皆も……記憶も……帰る場所すらも奪って……俺の惨めな姿は、そんなに面白かったか……?」
    「……」

    ヒースクリフは自分の手のひらを見つめた後、拳を握って呟いた。

    「……奪う時は……いつも、楽しくなんかなかった。でも、あの日は……遊びで、虫を踏み潰すみたいな気分だった。」
    「………」
    「今まで、そんな事無かったんだ。でも……あの時は……」
    「イかれてたから許せって事か?」
    「……許せって訳じゃ……ねえけど……アレは……絶対に……俺に無かったもんだった……」
    「……なら、何だ……?キャサリンの心がそんな心だったって事か……⁉︎」
    「……」

    ヒースクリフは呆れたような顔をして目を閉じた。

    「……あいつは……割とガキ臭え所あったぞ。」
    「……」
    「俺とお前じゃ見せる顔が違ったって事だ。」
    「……ッ、」

    グレゴールは拳を握り締めてヒースクリフを睨んでいたが、やがて視線を下に向けた。

    「……全部知りてえのは分かるけどよ……あいつが死んだ今、限界はあるだろ……俺だって、まだ知らねえ事あるんだから。」
    「……」
    「……、」

    グレゴールが尚も睨み付けていると、ヒースクリフが何かに気付いたようにハッと目を見開いた。

    「……まさか……俺があいつの心を喰った事に嫉妬してんのか……?」
    「……」
    「でもそんな事……お前が一番嫌がる事じゃねえのか。」
    「……そうじゃねぇ。」

    グレゴールは徐にレイピアの持ち手に手を掛けた。

    「てめぇの中に……あの人達の心が入ってんのが、気に入らねぇんだよ‼︎」
    「ッ……」

    グレゴールはレイピアを鞘から引き抜いて、ヒースクリフに向かって駆け出した。

    ヒースクリフは咄嗟に防御する姿勢を取ったが、グレゴールは剣撃を加えずに体当たりをした。

    予想していなかった特攻にヒースクリフが背中から倒れると、地面に縫い付けるように右の掌を突き刺された。

    「ぅぁッ……」
    「返せよ……!あの時みたいに……‼︎皆に、返せ‼︎」

    キャサリンの記憶が消え失せたままのバトラー達を見て、胸が酷く痛んだ。

    キャサリンの記憶が無くなった時の俺は、毎日が酷く虚しくて……ずっと胸が渇いていたから。

    でも、彼等はどうしようもない存在になっていた。

    それを俺の手で終わらせてやれなかったのが、悔しかった。
    悲しかった。

    悪魔と契約したとしても、ただの人間でしか居られない自分が……その無力感が、苦しかった。

    俺の手で、救えたなら……取り戻せたなら……

    「……いつまで刺したまんまで居る気だよ?」
    「……、」
    「ほら、剣の先っちょ見てみろよ。無くなってんだろ。」

    見てみると、刺した筈の先端が欠けていた。

    その代わり、刺した箇所から白い煙が立ち昇っていた。

    「なんか知んねーけど……防衛本能?かな……呑んじまった。わざとじゃねーよ。」
    「……」

    グレゴールはレイピアを鞘に納め、ヒースクリフの上から退いた。

    そのままその場を去ろうとすると、背後でヒースクリフが焦ったそうに叫んだ。

    「……ッ、お前、どうしたいんだよ⁉︎」
    「……」

    どうしたいのかなど、グレゴールにも分からなかった。

    何かを成したいのに、何も出来ずに足踏みしているような……そんな心地だった。

    思い浮かぶ物はどれも、叶わない物だったから。

    「……俺は……」

    そこまで言った瞬間に、こんな言葉が漏れた。

    「……あの人の所に……行きたい……」

    昇りたかった。

    昇らなければ、ならなかった。

    でも……まだ、昇る事は出来ない。

    何故だかそんな確信があった。

    「……お前は良いよな。天国に行けるんだから。俺達は死んだってその場で消滅するだけだ。喰ったお前らの魂みてーに……」
    「……」
    「だから俺は……引き摺り下ろすしか……」

    ヒースクリフはブツブツと何かを言いながら、裂かれた空間の中に入って消えた。

    「……」

    グレゴールはゆっくりと、おぼつかない足取りで来た道を引き返した。

    何故か、聖堂に行きたくなったのだ。

    悪魔が神父を務めている、あの聖堂へ。



    聖堂の扉には鍵が掛かっていなかった。

    ぼんやりとした心地のまま扉を開くと……紫色の髪の少女が描かれたステンドグラスを背にした講壇にムルソーが立っていた。

    その目が暗がりの中で紫色の光を帯びているのを見て、グレゴールはその時初めて目が覚めたような心地がした。

    「……呼び出したのか……ここに……」
    「フ……そうだ。大事な獲物に野垂れ死なれては困るからな。」

    本を閉じる音が聞こえた瞬間に、ムルソーの姿が消えた。

    「……ッ!」

    上だ。

    全身から紫電を迸らせたムルソーが、グレゴールの目の前に飛び降りて来た。

    「ぅ……っ、ぐ……」

    衝撃波で扉に背中を打ち付け、崩れ落ちたグレゴールを嗤うように、ムルソーが目の前に立った。

    「ああ……やはり胃が全て揃っていると言うのは良い物だな……他の存在に必要以上に怯える必要が無くなる。」
    「ゔっ……」

    あの日と同じように、俺の胸ぐらを掴んで軽々と持ち上げるその悪魔を見る。

    「あの日……こうしてお前の腕を引きちぎってやったな。覚えているだろう?」
    「……」
    「ああ……その目だ……私はお前のその眼差しが好きだった。誰が相手だろうと、その脅威など感じていないかのようにまっすぐ見て来るその目……へし折ってやった時は良い味になる者達の目だ。」

    ニィッと笑ってみせるその顔は、いつ見た笑顔よりも悪魔らしい物だった。

    「……俺は、まだ……折れねぇぞ……」
    「ああ、そうだろうな。今死んでも私が生き返らせる事を疑っていないのだから。」
    「……」

    喰う気なのだろうとは察していた。

    あの日のような恍惚とした顔をしていたから。

    「……人間は、今のように熱心に何かに執着している状態が一番の喰い時だ。」

    羊の目が細められた。

    「今喰えば……必ず嫌だ嫌だと踠いて、更に美味くなる。与えた物の代償として喰ってやれば……ああ……それが美味いのさ。」
    「……そんなに……人の願いは、美味いのか……?」
    「ああ。七つの大罪で言われているではないか?求め過ぎた結果、その願いは罪になり……我等悪魔にとってはそれが最高の味になる。」
    「……俺は……」

    罪人なのか?
    キャサリンも、罪人だと言うのか?

    ……狼の悪魔を罪人だと言うのなら、そうなるのだろう。

    取って喰われるだけの存在であって然るべきだと……それが"許されない"と言う事なら……

    (……俺は……君を許したい……キャサリン……)

    君だけは、何としてでも……許されてほしい。

    君が追い求めた末の罪を……俺が背負いたい。

    「……キャサリン……」

    求めよ、さらば与えられん。

    尋ねよ、さらば見出さん。

    門を叩け、さらば開かれん。

    「……」

    目を閉じると、キャサリンの部屋の扉が見えた。

    その扉を叩いて……開いた。

    『私、実はね……昔、この枕の中の羽を全部抜き取った事があるの。』
    『……どうして、そんな事を……?平べったかったら、それは枕としては機能しないんじゃ……』
    『……この枕をふかふかにする為に使われてる羽は、元々鳥達が持ってた物よ。本来……私達がこうやって寝心地の良さを追求する為に奪って良い物じゃないの。』
    『………』
    『だからね。抜いた羽をばら撒いて……本来の役割を果たさせてあげていたの。今では……流石に、やっていないけれど。あれは子供の頃の話だから。』
    『……やっぱり、君は貴いよ。キャサリン。』

    彼女の言葉はいつも俺の深い所を突いて……ハッとさせてくれた。

    昔から自分の威厳を守る事を第一にしていた俺の、弱い心を……少しずつ、変えてくれたんだ。

    『それでね。この話には続きがあるの。』

    記憶に無い言葉が、頭の中を反芻した。

    『空っぽにした枕の中にね……自分の秘密の物を詰めて、満たしていたの。』
    『……』

    期待を……願いを込めて、キャサリンに問い掛けた。

    『俺は今……君にとって、空っぽかな……?』
    『……』

    少し、考えるような声。

    『……片割れが無いんだもの。半分、空っぽね。』
    『……』
    『……言って。グレゴールさん。』
    『……満たして……くれないか……?』

    純粋な願いだった。

    祈りだった。

    代償も、これから押し寄せて来るであろう因果も、何も考えていない……無意識の、祈りだった。

    「……、」

    気付けば、白い腕が……右肩から生えていた。

    腕と言うには骨に近しい見た目だったが……その腕に巻き付いた棘の蕾が、みるみる内に花開いていった。

    まるで血が通っている事を示すかのように。

    「……何が……起こっている……?」

    目の前では、悪魔が狼狽えていた。

    「……願いが……ひとりでに、実を付けただと……?」
    「……祈りだよ。」
    「……そんな物が……」

    一瞬嘲るように見えたその引き攣った笑みに、畏怖のような物が滲み出た。

    「……実を結ぶ事があるとはな……」

    今まで神父として、人間達の話を聞いて来たこの悪魔はこう思っていたのだろう。

    悪魔が手を加えない限り、祈りは全てが等しく無意味であると。

    だからこそ、いっそ感動しているのだろう。

    「……ああ……やはり、お前は化ける獲物だったな……」

    そんな事を呟きながら、悪魔は地面から伸びた棘に絡め取られ、棘の蕾から緑色の薔薇を咲かせた。



    最初に出会った人間は……素晴らしく美味かったな。

    生まれたばかりで本を読み漁っていた私の目の前に、救いを求めている男が現れた。

    あらゆる物事、人間から見放され、頼る場所の無い男に私は手を差し伸べたのだった。

    『私が知恵を貸してやろう。お前はこれからどうしたい?』

    そう言って少しずつ知恵を与えて行けば……男は私を信じ込むようになった。

    頼られ、感謝されるのは悪い気分ではなかった。
    だが、私は私自身を知っていた。

    自分は決して神ではない事。
    だが、人間よりは上の存在である事。

    自分が悪魔である事を、私は誰に教えられる事も無く自分自身で悟ったのだ。

    だから、男を食べた。

    本当の姿を見せてやると、男はこう言った。

    『やっと頼れる人が出来たと思ったのに……悪魔だったのか……!この嘘吐きが‼︎』
    『……私は最初から自分を人間だとも、神だとも名乗った覚えは無いが。』
    『ひっ……!やめろ、近付くな‼︎』
    『私はお前に知恵を与えてやっただろう?これはその対価だ。大人しく受け入れると良い。』

    そうして……味を占めた私は小さな小屋に籠ると、悩みを抱えた人間達を募り、本を対価に少しずつ相談者を増やして行った。

    本を読む事でより多くの人間を口車に乗せる話し方を会得出来るし、何より将来の食事はより豊かになって行く。

    (ああ……もっと食べたい……)

    食欲は、空腹は増すばかりだった。
    だから毎日毎日人間を食べ続け、本を貪るように読み漁った。

    だが、そこに委員会の悪魔が来たのだ。

    『……醜い様だな、羊の悪魔よ。』
    『……?』
    『ほら、これを食うと良い。お前が最も欲しがるであろう知性が宿った実だ。ゆっくり咀嚼すると良い。』
    『……』

    女の手に乗せられた実を、私は受け取った。
    迷い無く口に含み、咀嚼すると……女の言葉の意味を理解出来た。

    紫と黒の体毛を、私は伸ばしっぱなしにしていた。
    それどころか、食事を素手で食い散らかしていた。

    『……うむ。そうだ。そうやって節度を知ると良い。』

    女がそう言った瞬間、白い髪の女がその背後から現れた。

    『おめでとうございます。貴方は我々悪魔委員会が管理すべき悪魔、それも上級だと認められました。歓迎します。羊の悪魔、ムルソー。』

    「……」

    記憶を見られた事を知ってか知らずか、ムルソーは絡み付くような視線を俺に注いでいた。

    「……いつか……」
    「……、」

    体に絡み付いた棘を掴んだ爪が、紫色のオーラを纏うのが見えた。

    「お前が死ぬ時に、その魂を喰ってやろう。いつ死ぬかは私次第だがな……」
    「ぅ……」

    心臓が揺れ動き、苦しくなってその場に膝をついた。
    冷や汗が滲み出るのを見るに、何かされているのだろう。

    「喜べ。私の目の届かない場所で死んだとしても、お前は死なずに生き返るだろう。いつか私が満足するまで……お前は生き続けて己の使命を全うすると良い。お前が絶望の淵に立った時に迎えに行ってやる。」
    「……っ……」

    キャサリンの事が、頭に浮かんだ。

    「……ふむ……まだもう少し熟成が必要だな。」
    「……」

    去って行く悪魔を睨んで見送ってから、俺は気を失った。
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