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    グレムル前提のヒスムル(仮)9
    アホみたいな頻度で書いてるのにまだ終わる気がしない
    またヒースクリフが曇ってるよ

    ヒスムル(仮)910時頃、ヒースクリフは寝心地の良いベッドの上で気持ち良く目を覚ました。

    「うぅ……ん……」

    腕を伸ばしてからカーテンを開き、家に人の気配がしない事に気が付いた。

    (……まだ帰って来てないのか……?つーかいつもの癖でムルソーのベッドで寝ちまってたな……)

    リビングに行っても家中を回ってみてもムルソーは居なかった。

    (……ああ……仕事か……)

    昨日見た書類の山を思い出してヒースクリフは落胆した。
    何故かは……何となく分かった。

    (おっさんと仲直り出来たのかな……)

    テレビを見ながらバターを塗っただけのトーストを齧っていた時の事だった。

    玄関の鍵が開く音が聞こえて来た。

    ヒースクリフがトーストを皿に置いて立ち上がると、ムルソーとグレゴールの姿が見えた。

    「おかえり。仕事じゃなかったのかよ。」
    「ああ。休みを取った。」
    「……」

    ムルソーの後ろで立っているグレゴールの苦々しい顔が目についてヒースクリフは嫌な予感を感知した。

    「……えっと……おっさんはなんで……」
    「私達の関係について話があるから同行してもらった。」
    「……?」

    いつものムルソーからは感じられない、物々しい雰囲気が発されているのでヒースクリフは身構えた。

    「……私がグレゴールと肉体関係を保ったまま貴方と付き合う場合、貴方は不快に感じるか?」
    「………?」

    あまりに突飛過ぎる質問にヒースクリフの頭は真っ白になった。

    「……は……?」
    「私はグレゴールとの関係を終わらせるつもりは無かったのだがグレゴールはそれを問題だと言った。だから当事者である貴方に判断してほしい。」
    「……なんで……俺、当事者になってんだ……?」

    どうしてもムルソーとグレゴールについての卑猥な妄想が頭から追い出せずに混乱していると、見かねたグレゴールが間に入って来た。

    「あのなぁ、ムルソー……そもそもお前の考え方自体に問題があるんだよ。浮気もんと一緒だぞ?普通はどっちか片方に絞らなきゃダメなんだよ!」
    「……貴方の考えている事が分からない。貴方は私と関係を続けたいから合鍵を受け取って私とセックスしたのではないのか?」
    「……っ⁉︎」(こいつらまさか昨日一晩中……)
    「ちょっ……こいつの前でそれ言うなよ!俺はあれが最後になるかもしれないって思ったから……したくなっただけで……」
    「これは貴方にとってもヒースクリフにとっても不都合の無い話の筈だ。それなのに何故貴方は問題視しているんだ?」
    「……あー……ダメだこれ……全然通じねぇ……」

    グレゴールが頭を抱えて溜め息を吐いた所で、ムルソーの視線がヒースクリフに向いた。

    「……見ての通り埒が明かない状態だ。」
    「誰のせいだよ。」

    グレゴールの突っ込みを無視してムルソーは続けた。

    「だから貴方に判断してほしいんだ。もし貴方が私と付き合う事になったら、私と2人きりの関係の方が良いのか?それとも2人で私を共有したいのか?」

    グレゴールが何やらぶつぶつとぼやいているのが聞こえたが、ヒースクリフには聞こえていなかった。

    「……」

    ヒースクリフは何も考えられずにぼーっと突っ立っていた。

    「……ヒースクリフ?」
    「ほら、フリーズしてるじゃねえか。」
    「……まるで私が悪いかのように言うな。」
    「そりゃそうだろ、こいつには情報量多過ぎたんだよ。明らかに言っちゃいけない事だって言っちまったし……」
    「……いや……」

    ヒースクリフが絞り出した声に2人がこちらを振り向いた。

    「……別に……あんたがそれで良いんなら……三角関係でも、良いけど……」
    「……え、」

    グレゴールが困惑しているのが分かった。

    「……そもそも、今はまだそのつもり無いし……」
    「……いや、ちょっと待て、ヒースクリフ……」
    「何だよ?」
    「本当にお前さんはそれで良いのか?後で嫌な気分になったりしないか?本当に?」
    「……そもそもなんであんたがそっち側に立ってるんだよ?あんたにとっては良い話の筈だろ?」
    「あのな……そうじゃないんだよ。こいつは甘やかしたらその分クソ生意気に育ちやがるんだ。今だって充分問題あるのにこれ以上の問題児になったら俺が堪ったもんじゃないんだよ!今の内にちゃんと直させないと後々お前さんが苦労するんだぞ⁉︎」
    「……」

    今までグレゴールが苦労して来た様子が容易に想像出来てしまった。

    「よく考えてみろ……恋人がこんなオッサンと裏で色々やりながらお前さんとイチャイチャしてるんだぞ……考えられないだろ?なあ、ヒースクリフ。後で後悔しない内にちゃんとしといた方が良い。そうしないとこいつ、その理論利用してお前さんと俺以外にも同じような関係の奴増やし始めるぞ……」
    「……」
    「……本当に、良いのか?」
    「…………良いけど。」
    「……本当に?」
    「つーか最後になるかもとか考えるんだったらあんた未練タラタラじゃねえか。」
    「ゔっ……!」

    クリティカルヒットが入ったらしい。

    「……おっさんもムルソーも別れたくないんだろ?両思いじゃねえか。」
    「……いや……そうじゃないんだって……本来はダメなんだよ、こー言うのは……」
    「……仕事で鋸で人体切断してる奴が何言ってるんだ?」
    「……」

    グレゴールはこれ以上何も言い返せないようだった。

    「……とにかく……あんた達が良いなら良いじゃねえか。俺は別に……嫉妬出来る立場じゃねえし……そもそも俺なんか挟まずにあんた達2人でイチャイチャしてれば良いんだよ。」
    「……だが、それだと貴方が……」
    「だから!今はそう言う事考えられないって言っただろ⁉︎」
    「……」
    「……そんな事で喧嘩するなよ。俺のせいで喧嘩してるみたいじゃねえか。」
    「……ごめん。」
    「すまない。」
    「……で……なんでこうなったんだ?」



    事の発端はムルソーがグレゴールに同居を勧めて来た事だったらしい。

    あまりよろしくない関係を築いている(と思っている)グレゴールはそれに抵抗を示して、ムルソーと論争を起こしたらしく、ムルソーがヒースクリフに聞けば解決すると言って今に至る……との事だった。

    「……」

    実際そんな事になった時を想像してヒースクリフは思わず苦い顔をした。

    「ほらな⁉︎そう言う顔になるだろ⁉︎」
    「……おっさんがこの家に来るのは別に良いんだけどよ……あんた、絶対俺が寝てる間にこの家でやるだろ……」
    「……」
    「……おい、ムルソー……お前まさかそのつもりで……?」
    「……貴方達がそれを特に問題としている事は分かった。」

    これに関しては2人で引く事になった。

    「こいつ……そうすりゃ一石二鳥って思ってたな……?」

    グレゴールは最早泣きそうになっていた。

    「……おっさんも大変だったんだな……」
    「分かってくれたか……」
    「……だが、貴方達にメリットがあるのは確かだ。」

    ムルソーが慌てたように話題をすり替えた。

    「ヒースクリフはグレゴールから工房について学べるし、グレゴールも節約が出来る。」
    「……」
    「……それでも貴方が嫌がるのであれば、無理強いはしないが……」
    「……お前……ヒースクリフと喧嘩した時の為に俺を緩衝材として置いておきたいだけだろ?」
    「……」

    ムルソーが眉間に皺を寄せて黙り込んだ。

    「ハァー……全くお前って奴は……」
    「……あんた、そんなに俺と喧嘩するの怖いのかよ……?」
    「……、」

    ムルソーが目を逸らして俯いた。

    「……貴方とグレゴールが居なくなった時、初めてあんな気持ちにさせられた。」
    「……」
    「……もう、二度とあんな気持ちを経験したくない。貴方が居なくなったら、グレゴールも私の前から居なくなるだろうから……」

    ヒースクリフは泣いているムルソーの顔を思い出して言葉を失った。

    グレゴールはムルソーの表情からただ事ではない事を察したようで押し黙った。

    「……貴方達が側に居てくれたら安心出来る。だから……出来るだけ、側に居てほしい。」
    「……じゃあ仕事に逃げる癖をやめるんだな。」
    「次からはそうしよう。」

    ヒースクリフはそこで初めて気が付いた。

    ムルソーが書類の山に囲まれていたのは、あの日に限っては逃げる為だったのだ。

    そこへヒースクリフが来て、決壊させてしまったのだ。

    「……」

    途端に悪い事をしてしまったように思えてヒースクリフは背中を丸めた。

    「……そう言えば、ヒースクリフの寝床ってどうしてるんだ?」
    「私が居ない間はベッドで寝かせている。私が居る時は……」
    「ソファで寝てるけど。」
    「……まずはヒースクリフの為に今日の内に色々買ってやろうぜ。」
    「そうだな……貴方が寝る場所も決めなければならない。」
    「え……でも……」

    ヒースクリフがそう言いかけると、グレゴールがにっこりと笑ってヒースクリフの肩に手を置いた。

    「気にすんなって。こいつ金あるのに殆ど使ってないんだよ。税金に一番金使ってるぐらいだからな。」
    「……」
    「大丈夫だって。なあ?ムルソー。」
    「ああ。必要以上に気を遣わなくても良い。」
    「……分かった……」

    ヒースクリフは頷いたが、やはり落ち着かなかった。

    以前感じたような不安が、また胸を圧迫し始めていた。



    「……ふ〜ん……ふんふ〜ん……♪」

    グレゴールの鼻歌だけが3人の間に響いていた。

    ヒースクリフはムルソーとグレゴールの足元を見ながら2人の後を歩いていた。

    グレゴールは時々ヒースクリフの背後に回る事があり、その時もヒースクリフは顔を上げられずに歩き続ける他無かった。

    「……なあ、お前さん。」

    グレゴールが突然小声で話しかけて来たのでヒースクリフは驚いて顔を上げた。

    「……前に立ってもらう方が良いか?それとも後ろに居た方が安心出来るか?」
    「……」

    さっきからうろちょろと前後を行き来していたのはこの為か、とヒースクリフは気付いた。

    「……前、の方が良い。」
    「そうか。じゃあ前行くよ。」

    ヒースクリフは何かしらお礼を言おうとしたが、グレゴールはさっさと前の方へ行ってしまった。

    「……」

    グレゴールはいつもヒースクリフに気を配ってくれる。

    かつてヒースクリフを可愛がってくれた、義祖父のように。


    『やだ……裏路地から拾って来たの……⁉︎』
    『手続きはどうしたんだよ?』
    『ちゃんと済ませたさ。それに裏路地と言ってもなぁ、そんなに酷い場所じゃないんだぞ。外郭に比べたら……』

    ヒースクリフは義理の祖父に拾われてあの家に来た。
    祖父はヒースクリフを可愛がって、学校に通えるようによく字を習わせてくれた。

    ヒースクリフが愛されていた時間は祖父と一緒に居る時と、祖父が生きていた時だけだった。

    ヒースクリフは自分がこの家に来た時の家族の反応を見て薄々勘付いていた。

    義兄弟から嫉妬される事も、義母から軽蔑される事も、義父から心底嫌われる事も。

    祖父が死んだ時、自分の居場所が無くなる事も、この家での生活がより一層苦しくなる事も、分かっていた。

    『……俺を置いて、くたばりやがって。』

    ヒースクリフが来て一年も経たない内に病死した祖父を、ヒースクリフは恨んだ。

    一晩中恨み節を呟きながら、泣きながら墓の側で蹲っていたヒースクリフは自分がいかに祖父に助けられていたか、愛されていたか、祖父の事をどれ程好いていたかを否が応でも思い知る事になった。

    そして、この家で自分がどれだけ低い位に居るのかも思い知る事になった。


    「……なあ、おい。大丈夫か?」
    「……」

    ヒースクリフはそこで初めて肩を叩かれて自分が足を止めた事を自覚した。

    「……どうしたんだよ、そんな顔して……何かあったのか……?ん?」
    「……何でも、ない……」
    「……」

    グレゴールは心配そうにヒースクリフを見ていたが、それ以上は何も言わなかった。

    ムルソーはそんなヒースクリフとグレゴールを見つめていた。

    「……さ、さあ……服買いに行くぞ〜。」

    グレゴールが引き攣った笑みを浮かべながら空気を変えようとしているのが分かった。

    「……うん。」

    『はぁ……ほんと残念な子ね。おじ様があんなに手塩にかけて育てたのに……』

    「……」

    ……残念な、子。

    たった一度思い出したその一言が、ずっと脳裏にこびり付いて離れなかった。



    「……いや……流石にそれは無いだろ……」
    「……だが……ヒースクリフはこう言う服の方が好みのように思える。」
    「いや、似合いそうだけどな……?似合いそうだけどヒースクリフはそんな派手なやつ着たくないと思うぞ……なあ?ヒースクリフ。」

    グレゴールが振り向いてそう聞くが、ヒースクリフはぼんやりと俯いて何も反応を示さなかった。

    「……」

    グレゴールはムルソーと目を見合わせた。

    「……そ、そう言や腹減ったなぁ。なあ、一旦昼メシ食ってからにしないか?」
    「……そうだな。時間も丁度良い。」

    ムルソーが服を戻している間にグレゴールはヒースクリフに向き直ってそっと肩に手を置いた。

    「……おっほん……さ、美味いもん食いに行こうぜ。な?」

    グレゴールは内心肝が冷えるような心地を味わった。

    ヒースクリフの表情は暗く、沈んだような重みを感じたからだ。


    ヒースクリフは俯いたままグレゴールとムルソーについて来ていた。

    グレゴールは背後のヒースクリフを逐一振り向いて確認しながらムルソーと小声で話していた。

    「……どうする……?多分メシ食ってもあのままだぞ……」
    「……そもそも今の彼の状態は私達にどうにか出来る物なのか?」
    「……でもなぁ……」
    「……一つ、解決出来る可能性があるとすれば買い物を中断する事ではないか?彼は金銭面に関する事に神経質な傾向がある。」
    「……」
    「……ひとまず、何を食べるか決めよう。」

    グレゴールは頷いて、ムルソーと共に背後を振り返った。

    だが、後ろにヒースクリフは居なかった。

    「……!いつの間に……!」

    グレゴールは早足で来た道を戻り始めた。

    (逸れる訳ない……!ちゃんと確認してたんだ……!)

    辺りを見回しながら歩いていると、肩を掴まれて止められた。

    ムルソーが眉間に皺を寄せながらグレゴールの肩を掴んでいた。

    「どうした……?居たのか……?」
    「……来た道を戻るだけでは距離が離れてしまう可能性がある。路地も探そう。貴方は向こうの路地を探してくれ。」
    「分かった……見つけたら電話くれ。俺も電話する。」

    ムルソーが頷いたのを見てグレゴールは再び探し始めた。

    「……」

    ムルソーはグレゴールとは反対の方へゆっくりと歩いて行き、ある店の入り口の脇で立ち止まった。

    そっと覗き込むと、ヒースクリフの姿が見えたがムルソーは路地へ入らずにじっと立ち続けた。

    (……戻って来るまでに収まりそうにないな。)

    ムルソーは目を伏せて、壁に背を預けると街の雑踏を眺め始めた。

    ……押し殺しきれなかったヒースクリフの嗚咽を聞きながら。
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