パンドラのノートプロローグ
――きみは意外と口が悪いよねと呆れたように笑われるのが好きだった。
今となってはもう十年も前の話だ。
それでも時々ふとした瞬間に浮かび上がって来る。
声はもう思い出せないが、つくりものめいた笑顔と好奇心を宿すあの青い瞳は、蔵内の脳裏にいっそ焼印かと思うぐらい鮮やかに焼き付いていた。
十年。
ボーダーは大きくなり設備が充実して同盟国も増えた。
蔵内和紀はそのうち開発室にスライド就職し、今はチーフエンジニアとして一つのチームを纏めるに至っていた。
東春秋と同じく大学院へ進学するのだと目されていたのに、三年次の冬にぱたりと院試の勉強を辞め、以降開発室に入り浸る形でそのままボーダー職員となった。
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