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    ゆまさん。

    らくがきと鬱

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    ゆまさん。

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    たまに作文書く度に字書きさんへのリスペクト値が爆上がりする……私は「せんせい、あのね」から始まる小1の作文能力しかない。

    雷鳴 微かに香っていた雨の匂いが濃くなってきた頃にポタッ、ポタッと雨粒が地面や屋根を打ち始めた。変則的な間隔をあけて聞こえてきた雨音も次第に雨粒を増やし、大雨へと変わっていった。

     そもそも本日の天候は晴れ。
     今朝からカラッとした気持ちのいい夏空が広がっていたのだからこの時季によくある通り雨だろう、と宿儺は特に気を留めずにいた。
     このような雨を見るとあの子犬と出逢った日を彷彿とさせられる。あの時も傘を強く打つ雨の日であった。
     そういえばその子犬の姿が見えないなと、宿儺が部屋の中に目を向けると、遠くの方からゴロゴロと雷鳴が聞こえてきた。これはいかん、と思い宿儺は腰を持ち上げくだんの子犬の捜索に向かった。

     玄関の下駄箱には子犬がよく履いて出掛ける靴がそのままきちんと鎮座している。現在外には出ていないようだ。トイレ、風呂場、客間、台所、子犬に充てがった部屋、書斎…よく使う部屋を一つずつ見て回るが探しているその姿は一向に見当たらなかった。
     最後に共に寝ている寝室の襖を開けるが、やはりいない。ふむ、では一体何処に…と顎に手をやり踵を返そうとしたその時、ピカッと外が光り次の瞬間、一際大きな雷鳴が地響きを伴いながら屋敷中に轟いた。
     すると寝室の押し入れからガタタッと物音が聞こえてきた。音の発生源である押し入れを開けてみると探していた子犬─伏黒恵が頭頂部を両手で押さえたまま、宿儺が使用している寝具の上で蹲り震えている。どうやら先程の雷鳴に驚いた拍子に頭をぶつけたらしい。

    「ここにいたのか、伏黒恵」
    「…ぁう、すくなぁ……」

     伏黒の目線にあわせるようにしゃがみ、宿儺が優しく声を掛けると弱々しく大きな耳をへたらせた伏黒が宿儺を見た瞬間にぎゅうっと抱きついてきた。いつもなら千切れんばかりにぶんぶんと振っている尻尾も、今は伏黒の股の間にピッタリと隠れてしまっている。
     伏黒はどうやら大きな音が苦手なようで、特に雷となると脱兎のごとく音の聞こえない場所へ逃げ隠れてしまう。その逃げ場所がいつも同じならいいのだが、毎回隠れる場所が異なるので今回のように宿儺が探し回るのが常であった。
     また外が鋭く光り、三拍ほど間を開けてから雷鳴が届いた。先程より光ってからの間があることから少し雷が遠ざかったようだ。しかし、それでも大きい雷鳴に伏黒の身体は飛び上がり、ぶるぶると震えはじめ宿儺の身体に回している手に更にぎゅっと力が入る。

    「大丈夫だ、落ち着け伏黒恵。この俺が傍にいる。ならば怖いものなどないだろう」
    「…ん、宿儺」

     小さい身体を更に小さくさせる伏黒を宿儺は座った体勢で抱え、その身体を優しく優しく擦り、伏黒はすんっと鼻をならして宿儺の胸元にぐりぐりと頭を押し付けた。

     しばらくそうしていると雷は遠退いたようで雷鳴もすっかり治まっていた。
     宿儺はもう大丈夫だろうと伏黒の背を軽く叩き声を掛けるも、伏黒からの反応がない。おや、と思い少し身体を離し顔を覗くと、くうくうと寝息を立て伏黒は寝落ちていた。
     雷の恐怖にずっと気を張り、全身を強ばらせていたところに宿儺が現れ、その大好きな温もりに包まれたことで気が緩んでしまったようだ。
     安心したように眠る伏黒の寝顔を眺めながら、宿儺はその小さくまろい頭を優しく撫でた。拾ったときは酷く警戒し、あまつさえ噛みつきもしてきたというのに、とまた伏黒との出逢いを思い出しフッとやさしい息を吐いた。
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